取材・文/ふじのあやこ
家族との関係を娘目線で振り返る本連載。幼少期、思春期を経て、親に感じていた気持ちを探ります。(~その1~はコチラ)
今回お話を伺ったのは、都内でインバウンド向けのメディアを扱う企業に勤めているものの、コロナ禍で現在は休職状態になってしまっている美代子さん(仮名・36歳)。東京都出身で、両親との3人家族。母親とはうまくいっていたものの、父親との思い出は嫌なことばかり。その母親も美代子さんよりも父親の転職に同行することを選び、大学進学とともに強制的に都内で一人暮らしを始めます。
「事後報告で父親の転職と両親の転居を聞き、実家は売りに出されて一人暮らしをすることになりました。生まれも育ちも東京だったからわざわざ一人暮らしをしようという考えがあまりなかったので、最初は戸惑いしかありませんでしたね。一人暮らしにはすぐに慣れたんですが、実家がなくなってしまったことが妙に寂しくて、何度も家を見に行ったことを覚えています」
会いに来た娘よりも自分のルーティンをこなす父親。笑顔を見ることはなかった
大学1年の夏休みに母親の勧めもあり、一度九州で暮らす両親の元を訪れます。住まいは賃貸の一軒家で、両親は楽しく新しい生活を送っていたそう。
「父親は仕事だったので、夜までは母親と2人きりだったんですが、九州での生活は楽しいようで、母親はずっと笑顔で話し続けていました。家は2人で暮らすには広すぎる感じで、両親の部屋は別々。都内にあった実家から家具を持って来ていたので、どことなく懐かしい感じはしたんですが、当たり前ですが、匂いとか雰囲気が違っていて。母親に会えてうれしいはずなのに、より寂しさが募った感じがしました」
夜遅くに帰ってきた父親とは挨拶を交わしただけで会話は特になし。家族団らんの時間さえも持とうとしなかったとか。
「父親が帰ってきて目が合った時に挨拶したぐらいです。その後もご飯を食べている間は同じ食卓を挟んでいましたが、元々口数が少ない人だから食事中の会話はなし。食事が終わると母親の制止を振り切って、自分の部屋で読書をしていました。母親から聞くと、父親は食事終わりにさまざまなルーティンがあるんだそう。娘が帰ってきているのに、そんな人なんですよね」
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