災害、事故、病気、老後など、日々の生活の中には危険や不安がいっぱいです。
そうした不安を軽減してくれているのは、国の社会保障であることは確かなのですが、意外にも関心は低いのかもしれません。それは、空気のように「あって当たり前」と思っているからではないでしょうか? 少子高齢化社会が急速に進行し、社会保障制度の維持が危ぶまれているだけに、国民が一人ひとりが「誰もが安心できる社会保障制度」について真剣に考えるべきではないでしょうか。
そこで「パソナ総合研究所」が20代~70歳以上までの全世代を対象に、『全世代型社会保障に関する意識調査』を実施しました。政府は「全世代型社会保障」として、誰もが安心できる社会保障制度に関する検討を進め、昨年12月に中間報告をまとめています。こうした政府の進める検討を受けて、各世代・男女毎に現行の社会保障制度に対する認識や、これからの改革の方向性についての意識を探り、その傾向をまとめました。
■政府が推進する「全世代型社会保障」に対する関心は意外に低い
「全世代型社会保障」について聞いたことがあるかと尋ねたところ、聞いたことがある人は3割弱にとどまり、現行の社会保障制度が持続可能と考えている人は僅か4.3%でした。
「全世代型社会保障とは何か知っているか?」を聞いたところ、年齢が高いほど認知率が上がり、女性よりも男性の方が高い結果となりました。一方、現行の社会保障制度の長期的な持続可能性については、半数強がわからないと回答しましたが、残りの方の約9割は持続不可能であると答えています。
■社会保障制度改革への関心は高く、優先順位はやはり「年金制度」
改革が必要な分野は「年金制度」が1位で、次に「医療保険制度」「子育て・教育支援の充実」が拮抗。改革の方向性は、給付水準・内容の合理化を求める意見が多いが、60代以上は現行の給付水準・内容の維持を求める意見が多数。
改革を進めるべき分野や方向性については、世代により差がみられる結果となりました。
改革が必要な分野では、「年金制度」が20代・30代の女性を除きどの世代でも1位となりましたが、2位は「医療保険制度」と「子育て・教育支援の充実」が拮抗しています。前述した20代・30代の女性では「子育て・教育支援の充実」が半数を超えて1位になる一方、60代以上の方では「医療保険制度」を挙げる方の割合が高くなっており、世代に応じた優先順位が表れています。また、70歳以上の男性は「就労支援」、同年代の女性は「介護保険制度」の割合が高くなるのも特徴です。
改革の方向性では、30代~50代を中心に全ての世代で「働き手の負担増には限界があるため社会保障給付水準・内容の合理化を行う」が1位となりました。しかし60代以上になると、働き手の増加策や増税等により「現行の給付水準を維持する」とした回答の合計が、「給付水準・内容の合理化を行う」とする回答を上回り、現在年金制度の受益者かどうかで意見が分かれました。それぞれの制度ごとの『全世代型社会保障に関する意識調査』の内容は以下のとおりです。
■誰もが安心できる「年金制度」にするために何を望むのか?
年金制度の改革の方向性は、70歳以上を除いて「消費税の目的税化など抜本的な改革」を求める意見が1位ですが、他の回答を大きく上回るわけではなく、具体的な方向についての意見は収斂(しゅうれん)していない現状が窺われます。70歳以上の方では、回答により前提条件は異なるものの「現行の給付水準の維持」を求める声の合計が半数を超えています。
■誰もが安心できる「医療保険制度」に必要な改革は?
改革の方向性は、国民医療費の増加抑制のため「保険適用範囲を含めた各種見直しはやむを得ない」が1位となり、水準の維持のため増税や自己負担増など「負担増加で対応」とする回答の合計が続いた。
少子高齢化が進む中これ以上の負担増は困難として、「公的医療の適用範囲を含めた見直しをやむを得ない」とする回答が1位(28.2%)となりましたが、現行制度の維持のため「保険料の引上げや増税」、「自己負担の増加」を許容する方の割合も合計で22.1%に達しています。
一方、健康維持のための運動や未病対策で「国民医療費の増加は抑制できる」と考える方は年齢が高くなるほど増え、70歳以上では1位となり、願望も含めて楽観的な見方をしていることが窺えます。
■誰もが安心できる「介護保険制度」に必要なのは?
制度改革の方向性を聞いたところ、高齢者を中心に「健康維持等の取組みにより給付費用の抑制は可能」が1位(20.3%)となり、「担い手の負担増は困難なため制度を縮小」(16.7%)と「サービス内容の拡充のため自己負担増もやむを得ない」(16.0%)が続きました。
男性が女性より「負担増もやむを得ない」とする傾向が強い一方、女性は「健康維持等の取組みにより給付費用の抑制は可能」とする意見が多く、男女の違いが表れる結果となりました。
■就労人口の拡大が「社会保障制度」を下支えするとの認識! そのために必要な施作は職場環境の整備
就労人口の拡大策について聞いたところ、「65歳以上の就労者の増加策」が42.6%で最も高く、続いて「女性の就労者の増加策」が21.1%、「外国人労働者の大幅な拡大」が11.0%になりました。
20代では「女性就労者の増加作」が「高齢者就労」を上回りますが、年代が上がると共に「高齢者就労」とする回答が非常に多くなります。
また、具体的な拡大策については、高齢者向けには「定年や再雇用期間の延長」を挙げる回答が多く、50代以降は半数を超えました。一方、「米国のように定年廃止や弾力的な賃金設計」にも40代(22.6%)を中心に一定の支持があることがわかりました。
女性向けの拡大策としてどのような対策が必要か聞いたところ、「保育所や学童保育の拡充」が1位となりましたが、「短時間労働や在宅勤務の拡充」や「同一労働同一賃金などパートタイムの処遇向上」も大きな支持を集めました。
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国家予算の社会保障関係費の割合は、33%以上で34兆円500億円超えるまでに膨らんでいます。高齢化は、少なくとも2040年まで進行すると予測されています。
こうした数字をみると、「社会保障支出の削減」が脳裏をよぎりませんか? 今から、国の社会保障制度を補完する「自己保障」の手立てを、何らか講じておく必要があるのではないでしょうか。
<調査概要>
調査方法:インターネットを通じたアンケート方式
調査期間:2020年2月26日~28日
回答者数:1,292名
回答者属性:20代、30代、40代、50代、60代、70歳以上の男女(各属性100名超)