取材・文/柿川鮎子 写真/木村圭司
夏が終わってあっという間に涼しくなりました。冬を迎える前に脂肪を蓄えるよう、たくさん食べる季節でもあります。今回はフードについて、ひびき動物病院院長の岡田響先生に正しい保管方法などについて教えていただきました。
岡田先生の病院では、夏の間、直射日光が当たって高温になる場所にフードを置いていた結果、フードそのものが変質してしまって、それを食べたペットが病気になってしまった事例があったそうです。そうした健康被害を予防するためにも、そもそもフードはどこに保管をしておけばよいのでしょう。
■フードは食品を常温保存できる戸棚などへ
岡田先生「フードメーカ-数社への質問をしたところ、ドライフードはどのメーカーも、(よほど高温になるとか虫がわくような場所でなければ)リビングや台所のパントリーなどに置いてもらえれば大体大丈夫、という返事でした」と言います。
「人間の食べ物を常温保管しておく場所であれば、ペットフードも一緒に保管しても大丈夫です。台所の食品戸棚やパントリーなど、ドアがしまって、中が室温程度に保たれている場所が良いでしょうね。湿気で変質するのを防ぐために、風呂場の近くなど湿度の高い場所や窓の近くで直射日光が当たるような場所はNGです。
それから、何となくペットフードは長期保存が可能な食品のような気がしますが、ドライフードは開封後1か月以内が基本です。
したがって、ドライフードは一袋あたりの大きさが問題です。1か月以内に使い切るようにすれば賞味期限内の未開封のものが複数あってもいいと思います。特に災害時の予備として、保存し、無駄を防ぐ為に、フードメーカ―は、普段使っているフードをもう一つ余分に用意して、順番に利用していく方法を推奨しています。
食べるわんちゃんも開けたての方がおいしいですし、開封すると油の酸化がはじまり、油が変質します。酸化して生成されるものは過酸化脂質というもので、悪玉コレステロールになったり、がん発生原因のひとつにもなると言われています。油の臭いでおいしくなくなると食欲も減って胃酸過多になったりします」と岡田先生。
ドライもウエットもペットフードは何となく長期間の保存ができる食品のような気がしていましたが、やはりドライフードは一か月以内に、缶は開けたら2、3日以内に食べきる量が基本のようです。
■大袋は小分けにするなど工夫して
とはいえ、最近は地震や水害など、大規模自然災害がいつ起きるかわかりません。備えておきたいのですが、大袋を買って少しずつ与えるというやり方はできないのでしょうか?
「確かに大入りだと、一食当たりの値段も低くなるので、買いたくなる気持ちも理解できます。でも、前述の理由から、大きな袋に大量に入ったものを購入して、封をあけたら口も閉めずに放ってあったりするのではないか?という点が少し心配です。
空気に触れるとどうしても酸化してしまいます。そして、温度や湿度、光によって酸化はスピードを増します。だから開封後の保管場所や時間は大事なのです。酸化したから、すぐに健康被害が出るわけではありませんが、やはり美味しくないので、食べる量が減ってしまったり、フードを食べないでおやつばかり食べて太ってしまうことが多いのです。なので、フードは適量を購入して、変質する前に食べきる量が良いと思います」
■ドライフード以外のフードも賞味期限に注意
ドライフード以外のペットフードも賞味期限にもっと気を付けて欲しいと岡田先生は言います。「缶詰やパウチ製品は開封したら冷蔵庫に保管して、2~3日以内に使い切らないといけません。
缶詰から食器に移す時にスプーンを使う飼い主さんは多いと思いますが、そのスプーンをペットが舐めてしまい、缶詰の中に入れておいたところ、雑菌が増えて腐ってしまったという事例もありました。食器に移すスプーンと、食べさせるスプーンは変えて使った方がより安全です」と教えてくれました。
最近のフードはペットの健康に配慮して「保存料なし」の商品も珍しくありません。そうしたフードは、できればその日に使い切るほうが良さそうです。
■災害が起きた後の体調不良も
先日の台風では、雨風雷の音や振動、スマートフォンの警告音などを怖がるペットがたくさんいました。台風の去った後では、消化器症状を起こす犬や膀胱炎を起こすネコなどが動物病院に来院されたそうです。
はじめはあまり原因がはっきりしないのですが、おそらく人間と同じようにペットも強いストレスを受けて、体調不良になる事例が多かったのではないかと岡田先生は言います。
「こうした、強いストレスを受けた上で、さらに保管状態が悪いフードを食べることで、体調を悪化させる可能性があります。ストレスが原因で起きる胃腸炎や膀胱炎の経験者には、それを防ぐためのフードというのも開発されているので、動物病院に相談してみるのも良いと思います」とアドバイスしてくれました。
■飼主さんの保管次第で劣化するケースも
岡田先生は実際にペットフードの工場を訪れ、最新の技術と厳密な管理によってかなり衛生面に配慮した製造をしている現場を視察してきたそうです。
「動物病院に納入される代表的なペットフードはその品質の維持のためにきちんと検査や試験を受けていることがよくわかりました。しかし、全部の会社がそうであるかといえば、それはわかりません。
たとえば総合栄養食の表記など、様々な基準をクリアできているものは、良質な製品の目安になりますが、最後は飼い主さんの管理が必要になります」と飼い主さんの保管次第で品質が劣化する可能性もあると言います。
美味しく食べて健康で長生きしてもらうためにも、フードの保管に関して、見直してみたいと思います。食べすぎに注意して、美味しい秋を、ペットとともに満喫したいものですね。
取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。
写真/木村圭司