文/印南敦史
『すべての病気は血管で防げる!』(池谷敏郎著、青春文庫)の著者は、血管、血液、心臓などの循環器系のエキスパートとして各種メディアで活躍している医学博士。
本書は、ベストセラーとなった2015年発行の前著『人は血管から老化する』に続き、この3年間の新しい知見を盛り込んだ文庫である。3年も経てば「血管ケア」に対する意識や考え方が変化しても当然だということで、「血管が若返り、健康寿命がのびる食事の新常識」を紹介している。
しかしその一方、3年経っても変わらないこともあるのだという。たとえば最たる例が、日本人の死因の第1位であるがんについての考え方だ。
「がん家系」という言葉もよく聞かれるので、がんになるのは遺伝的な要因が強いように思われがちですが、完全な遺伝性のがんは、がん全体の5%ほど。残りの95%は、遺伝とは関係ありません。(本書「文庫版のための序章 すべての病気は「血管」で防げる!」より引用)
これは意外な事実なのではないだろうか? たしかに親ががんになった人には、がんになりやすい傾向がある。しかし、その原因の多くは遺伝ではなく、「同じ生活習慣を持っていること」にあるというのだ。
だとすれば、それもまた納得できる話ではある。同じ家で生活していると、たばこを吸う、歩かない、肉ばかり食べている、野菜を食べない、お酒をよく飲む、睡眠時間が短い、睡眠時間が不規則……といった“よくない習慣”までが似てしまうことになる。そのため、親ががんになれば、子もがんになりやすいというわけだ。
実は、25%のそうした家族から受け継いだ生活習慣がかかわっていると言われています。この25%のがんは遺伝によるがんとは違って、避けられるがんです。
では、残りの7割はというと、遺伝も家族も関係ありません。後天的な生活習慣の影響が大きいがんです。ということは、95%のがんは、生活習慣病なのです。(本書「文庫版のための序章 すべての病気は「血管」で防げる!」より引用)
同じことは、心疾患(心筋梗塞や狭心症など)、脳血管疾患(脳卒中)などにもいえるという。血管は正直で嘘をつけないからこそ、食生活や生活習慣の良し悪しが、血管に現れる。
だから、元気そうな人であっても、血管を老けさせる生活を続けていると、やがて心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気を引き起こしてしまうのだ。そう考えると、寿命を左右する大半の病気は生活習慣病だと考えることができる。
だとすれば気になるのは、血管が老けやすいのはどういう人たちなのかということだ。長年にわたり、循環器の専門医として外来で患者と向き合っている著者は、この点について痛感することがあるのだという。
「心臓には自信がある」「体力には自信がある」が口ぐせのような人ほど危ないというのだ。自信があるからこそ、バリバリ働き、疲れが残っていても精力的に活動し、高血圧など気になる症状があっても食事や生活習慣を省みようとせず、血管や心臓に過度な負担をかけてしまうということだ。
つまり、血管を若々しい状態に保つことこそが重要だということである。しかも血管は、何歳からでも若返るのだという。ならば必要なのは、敵を知ることではないだろうか。そこで今回は、本書のなかから「老化を招く4大悪」に注目してみたい。
【老化を招く4大悪】
(1)喫煙
喫煙は、血管を老化させる最大の要因。たばこの煙に含まれるニコチンは、体内に入ると血管を収縮させるからだ。すると血圧と心拍数が上昇し、高血圧や動脈硬化を引き起こす。
なお、たばこを吸うと、快感や多幸感を呼び起こす「ドーパミン」というホルモンが脳内で分泌されるが、これは見せかけのリラックス状態。実際には交感神経が緊張し、体は強いストレスを受けることになる。そのストレスが血管を狭め、硬くし、さらに高血圧や動脈硬化を助長してしまうというのだ。
(2)高血圧
高血圧とは、心臓から送り出された血液が、血管の壁を押し広げる力のこと。高血圧が続くというのは、血管の壁が強く押され続けているということだ。
強く押され続ければ、その圧力に耐えるため、もともとはしなやかだった血管が少しずつ厚く硬くなり、血管の通り道が狭くなっていく。血液はそこを無理して通るため、さらに血管に対する圧力は上がり、血管を傷つけてしまうわけだ。
すると血液の流れに直に接している「血管内細胞」が傷つき、そこから血中の資質などが血管の幕に入り込み、動脈硬化が進んでしまうというのだ。
(3)脂質代謝異常
脂質代謝異常とは、脂質のなかでも“悪玉”と呼ばれる「LDLコレステロール」「中性脂肪」が多すぎる、または“善玉”と呼ばれる「HDLコレステロール」が少なすぎる状態。
LDLコレステロールは肝臓から全身へコレステロールを運ぶ役割を担っているが、増えすぎると余分なコレステロールを血液中に置き去りにしてしまう。それを回収して肝臓に戻すのがHDLコレステロールだが、量が多すぎると回収しきれなくなる。
そして回収されなかったコレステロールは、血管にできた傷から血管の壁に入り込んでたまってしまう。これが酸化されて編成すると、動脈硬化が進行するのだ。
また中性脂肪が血液中に増えると、HDLコレステロールが減る。同時にLDLコレステロールが小型化し、血管の壁に入りやすくなってしまう。すると、ますます動脈硬化が進みやすくなる。さらに、余った中性脂肪自体も変質し、血管の壁に入り込み、血管にできるコブの材料になる。
悪玉と呼ばれるLDLコレステロールも中性脂肪もそれぞれに重要な役割があるが、多すぎて血液中に残ってしまうようだと悪影響のほうが大きいということだ。
(4)高血糖
高血糖とは、血液中のブドウ糖の濃度が高い状態のこと。しかし、そもそもなぜ高血糖が体に悪いのだろうか?
血液中に余った糖質は、たんぱく質と結びついて「終末糖化産物(AGEs:エイジス)」と呼ばれる物質に変わる。これが活性酸素を発生させ、血管を傷つけるというのだ。
さらに血管壁のなかにも侵入し、すでに血管内部に入り込んでいたLDLコレステロールを酸化させ、動脈硬化を高めてしまう。
余分な糖質がタンパク質と結びついてAGEsを生み出す反応を「糖化」というが、この糖化は酸化の原因となり、細胞を老化させる最大の犯人なのだそうだ。
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他にも食事や運動の方法、習慣などさまざまな角度から「血管ケア」の方法を明らかにしている。すぐに取り入れられるものばかりなので、ぜひとも参考にしたいところだ。
『すべての病気は血管で防げる!』
池谷敏郎/著
発行:青春出版社(青春文庫) 定価 734円(本体:680円)
2019年1月発売
文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』などがある。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)。