取材・文/坂口鈴香
今や介護の担い手は、嫁いでいようが、妻が専業主婦だろうが、実の娘や息子という時代だ。少し前まで、長男の嫁が担うのが当然という風潮が強かったが、状況は一挙に変わった。それでも、多かれ少なかれ嫁が介護にかかわるケースはまだまだ多い。今回は、そんなケースを紹介しよう。
姑が認知症に
大村佳代子さん(仮名・63)は、近くに住む共働きの息子夫婦の子どもの保育園への送迎、息子家族の夕食づくりに加えて、隣県に住む夫の両親のもとにも週に数回通っている。子育てをしていた30代のころより「倍どころじゃなく忙しい」と笑う。夫は定年退職後、再就職し、残業こそないものの毎日出勤しているし、夫の弟夫婦も現役で働いているため、介護はまったくあてにならない。孤軍奮闘中だ。
もともと義父母とは、そう頻繁に行き来する関係ではなかった。夫兄弟は、どちらも最難関大学を出て、一流企業に就職。夫の両親にとっては自慢の息子たちだった。特に義母は息子たちを溺愛していたという。
「義母は最愛の息子を奪った嫁が気に入らなかったんでしょう。私も気が強い方なので、何かとぶつかることも多かった。それで、子どもが大きくなるとお正月に顔を出す程度の付き合いになっていたんですが、主人兄弟は義母を大切にしていましたね。仕事帰りに寄ったりしていたようです」
ところが、義母は75歳を過ぎたころからだんだん足腰が弱ってきた。さらに、物忘れが目立つようになり、認知症と診断されたのだ。
「主人兄弟は、大好きな母親が認知症だと認めたくなかったようですが、さすがにおかしいと病院に連れて行ったんです。義父はお茶を入れたこともない人だったので、それでもまだ義母が家事をやっていたんですが、あるとき鍋を焦がして大きな穴を開けて、さすがに怖くなりました」。
義父は厳格な家長というタイプだった。ヘルパーを家に入れることも嫌がったため、義父母の二人暮らしはあっという間に難しくなった。当時、佳代子さんも平日はパートに出ていたので、週末になると夫と実家に行き、食事の作り置きや掃除をしていたが、それも限界がある。夫兄弟と話し合って、母親を自宅から近い有料老人ホームに入居させることにした。
「本当は二人で入居してほしかったんですが、義父は絶対に家にいると言って拒否。義母は自宅に固執することもなく、一人でホームに入ることを受け入れてくれました。それでひとまず安心したんですが、主人と義弟は母親を施設に預けることに抵抗があったようです。自宅で介護するのはどう考えても無理ということで、しぶしぶ同意したという感じですね」。
それからだ。佳代子さんの奮闘がはじまったのは。
【次ページに続きます】