取材・文/渡辺陽
「犬は人生最良の友」と言いますが、猫の場合はどうでしょうか。せっかく猫を飼ったら猫ともっと仲良くなってみたい、家族や友人のように親密な関係を築いてみたいと思いますよね。京都大学で猫の心理学を研究されている高木佐保先生に、猫と仲良くなるための秘訣を教えていただきました。
――猫は人の気持が分かるのでしょうか。
高木 「猫は結構いろんなことを理解していて、たとえば、人が顔を向けた方向に注意を払っているのが分かります。器が2つあると、人が指を指したほうにおやつが入っているんだなということも分かるんです。飼い主と他人の声の違いも聞き分けることができるのですが、猫の観察力はとてもすごくて、人が楽しいなと思っている時、落ち込んでいる時やイライラしている時など、表情を手掛かりとして人の気持も理解している可能性があるのです。『嬉しそうな顔の時は、おやつをもらえる』ということを学習しているのですね。一方で、ネガティブな気持にも察知している可能性があるので、人が明るい気持ちでいたほうが、猫も楽しく過ごせるでしょう」
――猫の気持ちは人の気持ちや態度によって左右されるのですね。
高木 「そうです。さらに、楽しい経験をたくさん積むことによって、猫は、『この人といると楽しい、嬉しい』と学習して、人と親しくなっていくのです。そうした経験を積むのに最も適した時期は、生後4週齢~8週齢だと考えられていて、この時期を猫の社会化期と言います。この時期に一緒に暮らした子は、猫同士遊ぶことで、遊び方や噛む力加減を覚えるので、同種動物の猫とも親しくなれるんですよ」
――『楽しい経験』とは、例えばどんなことをしてあげたらいいのでしょうか。
高木 「猫に『その人にすごくいいことをされた』という経験をどんどんさせましょう。
・美味しいごはんやおやつをあげる
・十分遊んであげる(猫は狩猟能力が色濃く残っているので、遊ぶのが大好き)
・一緒にリラックスタイムを過ごす(こたつでゆったり過ごすなど)
などしてあげましょう。猫はぽかぽか温まるのが好きなので、冬ならば膝の上に乗せてあげるとか、夏は暑くて、あまりベタベタくっつくのを好まないので、猫が自分でグルーミングできないところ、例えば、おでこから鼻筋のあたりをなぜてあげると喜びます。すべての意味が分かっているかどうかは別にして、穏やかに話しかけてあげてもいいでしょう」
――逆に、猫にしてはいけないことはありますか。
高木 「猫の嫌がること」はしないようにします。
・突然大きな音を立てて、猫を驚かせないようにしましょう。
猫は聴覚がいいので、小さい音でも検知します。急な動きにもびっくりしてしまうので、小さなお子様のいるご家庭では、お子様が大きな声や音を出したり、突然思いがけない行動をしたりしないように注意を払ってあげましょう。
・じつは、長時間の留守番は苦手なのかも?
猫は平気で留守番をするように思われていますが、やはり長時間、1匹で留守番するのは寂しいのかもしれません。留守番の時間が長い猫と短い猫では、飼い主さんが帰ってきた時の反応が違います。実験では、30分留守番をした猫と4時間留守番をした猫を比べたのですが、4時間留守番をした猫は、淋しかったようで、喉をゴロゴロ鳴らして甘える反応が見られます。
その他、嫌がっているのにシャンプーをする、といったこともやめましょう。動物病院には、嫌でも行かないといけないので、キャリーはいいところだと子猫の頃から覚えさせます。キャリーの中で大好きなおやつを食べたり、ご飯を食べたりすると、ここはいいところだと学習します。
猫が『楽しいな、嬉しいな』と思う経験をたくさんさせるには、人の都合で無理矢理何かをするのではなく、猫の気持ちやテンポ、心の準備に合わせてあげることがとても大事です。そうすることで、猫との心の距離はどんどん縮まります」
高木佐保(たかぎ・さほ)2018年 京都大学文学研究科 博士課程修了。専門分野は比較認知科学。学術振興会特別研究員、2018年より京都大学 非常勤講師、同志社大学 非常勤講師。著書「マンガでわかるねこの心理学」監修(共著)
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。