文・画/北村さゆり
私は、『サライ』で連載中の「半島をゆく」で風景を描いている。昨年9月号の国東半島編からの参加である。その時の指南役は、別府大学の飯沼賢治先生。興味津々の解説をメモしていった。カメラマンの藤岡さんはぐいぐいシャッターを切り、一行は行程に沿って移動していく。
私は画材を拡げる間もなく、景色を撮影し、時々スケッチブックに描いた。東京の仕事場に戻り、挿画に取りかかると、風景写真から風景画が描けない事がわかった。
いや、正確に言うと、自分の記憶した景色と写真は明らかに違う。殴り描きであろうが、クロッキーは重要な記録であり、それがないとお手上げだった。
11月号の挿画は、千代ヶ崎砲台跡。ヨーロッパの古城のように見えるが、ここは東京湾を守る旧日本軍の要塞跡地。今は軍事遺跡として「国史跡」に指定されている。
長い間自衛隊の所有地だったそうで、とてもきれいな状態で遺されている。横須賀市が管理するようになって、育ちすぎた樹木を切ったり、遺構を掘り起こして元の姿に戻したそうだ。煉瓦の焼締めの違いで、それぞれが適所に丁寧に配置されている。組積法はオランダ積み。建築遺構としても魅力的。軍人達は、このトンネルのような要塞で何日間も寝起きしたそうだ。
ここでどんな食事をして、排泄はどうしたんだろう? おばさん(私)の興味はそんなところだが、開国史研究会会長の山本詔一さんは、「伊豆半島と房総半島という太刀持ちと露払いを従えた三浦半島は、小さいけれど横綱だよ」と仰る。なんてロマンチック! 小兵力士が睨みを効かせる絵面も頼もしい。
文・画/北村さゆり
昭和35年、静岡県生まれ。日本画家。『利休にたずねよ』『三鬼』など小説の挿絵も担当。著書に『中世ふしぎ絵巻』など。
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