静岡県伊豆市、伊豆半島のちょうど中心あたり、奥天城といわれる地にあるのが吉奈(よしな)温泉です。
豊かな自然が残る天城山に囲まれる里山で、奈良時代中期、724年に僧・行基が建立した善明寺とともに栄え、その行基が発見したのがこの温泉です。江戸時代には既に「霊泉・子宝の湯」として名を馳せ、多くの宿が並んでいたと言います。
源泉の温度は高すぎず、ちょうど良い湯。のんびりと長湯もでき、これが女性の身体を温めるのによかったのかもしれません。子宝の湯の評判を聞いて、徳川家康の側室・お万の方が子宝祈願で滞在し、2児を授かったことから、その名が全国に広がったと言います。泉質は弱アルカリ性の単純泉。肌にやさしく、柔らかな風合いです。
吉奈温泉を開湯したとされる行基ですが、全国には行基が発見したという温泉が数多く残ります。同じ伊豆では、下田の蓮台寺温泉、河津町の谷津(やつ)温泉。行基は寺院建立のほかに灌漑事業を積極的に行なったことから、温泉採掘にも長けていたのでしょう。
(写真は「東府やRezort&Spa-Izu」)。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。