夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。月曜日は「健康・スポーツ」をテーマに、プロレスラーの神取忍さんが執筆します。
文/神取忍(プロレスラー)
前回のこのコラムでも述べましたが、私は“プロ”のレスラーとは、リングの上で戦うだけじゃなく、社会の旗振り役でなければいけないと思っています。だから、社会における自分の役割は何なのか、その役割をどうやって果たしていったらいいのかを、常々考えながら、被災地のボランティアなど、さまざまな活動をしているんです。
そのひとつのが、「いじめ撲滅」のための活動です。
参議院議員(2006~2010年)として、文部科学委員会に所属していたころに、小学6年生の女児がいじめを苦に自殺した事件がありました。教育現場などで話をうかがい、いじめ問題に取り組んでいたんだよね。
その後2011年に、いじめによる中学校男子生徒の自殺が起きました。結局、参議院議員任期中にいじめ問題は解決できないままだったので、いじめで命を落とす子供たちがいなくなるようにと願い、つらい状況から逃れられる手段を本にまとめたのが、この活動のはじまりです。
本のタイトルは『神取流いじめ解消術 弱者の吠え方』 (柏艪舎、2013年刊)です。
この事件では、学校側がいじめの存在を否定したり、地元の教育委員会が自殺といじめの因果関係を認めなかったり、警察が被害届を受理しなかったりと、その後の報道でいろいろと問題が明らかになっていきました。
そんなやるせない事件で、いじめはもう、当事者同士の話し合いで解消できる状況じゃないと思ったんですよね。
だから、本の中では、いじめられている被害者や、いじめを嫌いながらも見て見ぬ振りをしてしまう第三者に向けて、どのような手段を講ずればいじめを解消できるのか、私の考えを述べました。
具体的には、いじめの証拠を集めるためのノウハウや、集めた証拠を世間に知らしめる方法、知らしめたあとの法的手段など。最終的な手段としては「学校から逃げてもいいんだよ」ということも伝えています。
本の中で私が提示した方法に否定的な人もいるかもしれないけれど、私はキレイごとを言っている時代はもう終わったんじゃないかと思っています。自殺してしまったらすべてが終わってしまうのだから、まずは自殺を阻止したいというのが、私の願いです。
格闘技の世界で生きてきた私にとって、弱さというのは常に否定すべきもので、打ち勝たなければならないものでした。
ところが、自分が強くなるにしたがって、自分の弱点がよりはっきりと見えるようになってきたんですよね。すると、強さと弱さは表裏一体で、自分の弱さをきちんと見据えなければ、本当の強さは得られないと思うようになりました。
だから、いじめにあっている人も、まず自分の弱さをしっかり認識したうえで、自分の命を守ることを第一に考え、それを実行してほしい。弱さこそが人を強くすると、神取は信じています。そうして強くなった人は、必ず次は弱い人に手をさしのべるでしょう。
イベントで実践、いじめ撲滅は「やめろ~」の声がけから始まる
いじめ撲滅に関しては、全国各地で定期的に、幼稚園から小学生の子どもたちに向けたイベントも開催しています。
私たちがリングの上で戦う姿を見てもらいながら、リングに登場した悪役レスラーに対して、子どもたちに「やめろ~!」という声がけをしてもらったり、子どもたちをリングに上げて、一緒に簡単な受け身の練習などをしてレスラー気分を味わってもらったり、というのがイベントのおおよその流れ。
最後のトークショーでは、私が子どもたちにいじめに立ち向かう勇気を持ってほしいという願いを伝えています。
私たちがリングで戦う姿を実際に見ることで、子どもたちは「戦うパワー」を感じることができるんじゃないかと思うんですよね。また、悪役レスラーへの声かけでは、何かに遭遇したり、見たり聞いたりしても、黙っているだけでは、そのときの思いは誰にも伝わらないということを学べるんじゃないかと考えています。思いを声に出すことの大切さを実感してほしいんですよね。
イベントに参加した子どもたちは、リングに上がるとテンションが上がるみたいで、どの子もとってもうれしそうなんですよね。イベントには親御さんも一緒に来場することが多いので、親御さんにも、いじめの現状やそれに立ち向かう術を知ってもらう、いい機会になっているんじゃないかと思っています。
いじめには、勇気を持って親子で立ち向かってほしい! そして、そうした方たちを私は全力で応援していきたいと思っています!!
文/神取忍(かんどり・しのぶ)
神奈川県生まれ。プロレスラー。1983年から全日本選抜柔道体重別選手権(66kg級)3連覇。1986年女子プロレスデビュー、現在は総合格闘技にも挑戦中。女子プロレス団体LLPW-X代表。