文・写真/石橋貴子(スコットランド在住ライター/海外書き人クラブ)
スコットランドは、言わずと知れたスコッチ ウィスキーのふるさと。ところがこの地で近年、手作りで少量生産のクラフト・ジンが人気を呼んでいると前回お伝えした。
今回は、スコットランドの個性派揃いのクラフト・ジン蒸溜所の中から「マックイーン蒸溜所」をご紹介したい。比較的訪れやすいスターリング地域にある、職人(クラフトマン)魂たっぷりの蒸留所だ。
スコットランド最大都市グラスゴーから北へ車で約1時間の所にある街・カランダー。英国が誇る自然賛美の詩を書いた文豪ウィリアム・ワーズワースや、スコットランドの国民的作家ウォルター・スコットにも影響を与えた美しいスポットだ。近郊にはお城で有名な街スターリングがある。また、水質に優れたカトリン湖があることから、ハイキングやサイクリングに訪れる人が多く、散策するにはもってこいの街だ。
街の中心にはランドマークとなる教会、そしてスイーツショップ、ベーカリー、カフェ、土産店など、眺めているだけでも楽しいカラフルでレトロなお店が立ち並ぶ。スコットランドは、山岳地帯が多い「ハイランド」と、都市や工業・農業地帯が集まる「ローランド」の大きく二つに分かれるのだが、カランダーはその境目にある「交通の要衝地」で長くあり続けた。そのため決して大きな街ではないのだが、穏やかな中にも、確かな活気がある。
カランダーの街の少しはずれに、今回ご紹介する「マックイーン蒸溜所」がある。羊が放牧されるスコットランドらしいのどかな地にて、2015年7月創業。ソフトウェア・エンジニアという全く畑違いの職歴を持つマックイーン氏が、第二の人生としてクラフト・ジン作りを始めた。そして、そのわずか2年後の2017年世界的な酒類コンペティション「サンフランシスコ ワールド スピリッツ コンペティション」(SWSC)で最高金賞(ダブルゴールド)を受賞したという驚きの実力派だ。
「正直に、誠実に、情熱を持って、本物のクラフト・ジンを自分たちの手で作る。私たちの成功は、お客様の喜びだけで測られる」という氏の言葉からもわかる通り、真面目で、60歳を過ぎているとは思えないバイタリティと温かみを感じるザ・スコットランド人だ。
唯一無二のスーパークラフト・ジン
早速、デール氏にマックイーン・ジンの蒸溜方法についてご説明いただいた。
「ウチは、イギリス製のベースのスピリットを購入して使う。ここへ地元カランダーの美味しい水を加えて、香りの基本になるジュニパーとコリアンダーを直接漬け込んで、ひと晩寝かす。マックイーンのクラフト・ジンは全部で6種類のフレーバーがあるのだけど、再度蒸留する際にフレーバーごとに厳選したボタニカル(薬草やフルーツ)数種類を10時間蒸気に通し、煎じることで、香りに深みが生まれ、どこにもない個性的なジンが出来上がる。実は、この後者の煎じる方法を採用しているクラフト・ジンの銘柄は少ないんだ。フレーバーを作るボタニカルのレシピは、ソフトウェアのエンジニア経験でつちかった設計力と開発力で決定した。目のくらむような忍耐力の要る作業だった。これは私の考えだけれど、ベースのスピリットは、いわば白いキャンバス。そしてクラフト・ジンのフレーバー作りは、自分が選んで決めたボタニカルで色を塗っていくようなもの。私は、唯一無二のスーパークラフト・ジンを作りたいので、キャンバスは無味透明な方がいい。ま、ベースのスピリットづくりにお金をかけるぐらいならば、個性をつくるフレーバー作りにお金をかけたいのが経営者として正直なところだけどね(笑)」
なお、蒸溜所ツアーは、平日の月曜日から金曜日の午後2時半から行われている(参加費10ポンド)。マックイーン蒸溜所のHPから予約が可能だ。(http://www.mcqueengin.co.uk/product/distillery-tour/?age-verified=e16b3ebe59)
ツアーには、蒸溜所の詳しい説明と、マックイーン自慢のジンテイスティングも含まれる。カランダーの美しい街巡りと一緒に、世界最高金賞のクラフト・ジンに出逢って欲しい。
蒸溜所後のお楽しみは、自宅でジン・トニック
摘みたてのミントとチョコレートが香る個性派ジンには、軽やかな甘みのトニックウォーターと、爽やかなフレーバーを引き立てるミント、香ばしさを引き立てるコーヒー豆を合わせて、ジン&トニックを作ろう。一日の疲れと夏の暑さを忘れさせる最高の一杯だ。なお当レシピは、デールさんの奥様ヴィッキーさんによるもの。ヴィッキーさんは元シェフで、マックイーンのフレーバー作りを担う影の立役者でもある。
【レシピ】
・マックイーン・チョコレートミント・ジン50mL、
・フィーバーツリー・ナチュラリーライトトニックウォーター100mL
・たっぷりの氷
・ミントとコーヒー豆をお好みの量
文・写真/石橋貴子
スコットランド在住。コピーライター・編集者としての25年以上の職歴と、ジャーナリスム専攻ならではの視点を活かし、日々アンテナを張り巡らせて、スコットランドの隠れた魅力をお伝えしている。海外書き人クラブ所属。(http://www.kaigaikakibito.com/)