取材・文/池田充枝

戦前の日本を破天荒に生きた画家、長谷川利行(はせかわ・としゆき1891-1940)。愛称はリコウ。京都に生まれ、多感な青春時代を文学に傾倒した利行は、自ら歌集も出版しますが、30歳頃に上京。本格的に絵画を志して作画活動に没頭しました。36歳で第14回二科展・樗牛賞、翌年には1930年協会展で奨励賞を受賞するなど、一挙に画家としての才能を開花させました。

長谷川利行(1939年 矢野文夫撮影)

独自に体得した利行の油彩画は、自由奔放な筆致と天性の明るい色彩にあふれ、当時の画壇に衝撃を与えました。関東大震災から復興を遂げつつあった昭和初期、利行は汽車や駅、モダンなビルディング、カフェや酒場の喧騒といった街の息づかいを鮮やかに描き出しました。

しかし、いつしか酒に溺れ、生来の放浪癖もあってか浅草や山谷、新宿のドヤ街を転々とする暮らしを送るようになり、東京市養育院で行路病者として49歳の生涯を閉じました。

長谷川利行《カフェ・パウリスタ》〔1928(昭和3)年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館蔵〕

利行が亡くなって70余年。近年、長年所在不明となっていた油彩の大作が相次いで発見され、改めて利行の画業に関心が寄せられています。

近年発見された大作を含め、長谷川利行の画業を辿る18年ぶりの大回顧展が、東京の府中市美術館で開かれています(~2018年7月8日まで)。

本展では、近年の再発見作《カフェ・パウリスタ》《水泳場》、約40年ぶりの公開となる《夏の遊園地》、そして新発見の大作《白い背景の人物》など、代表作を含む約140点で利行の芸術の全貌を紹介します。

長谷川利行《水泳場》〔1932(昭和7)年 油彩・カンヴァス 板橋区立美術館蔵〕

本展の見どころを、府中市美術館の学芸員、小林真結さんにうかがいました。

「長谷川利行が生きたのは、関東大震災からの復興が進み、東京の近代化が一挙に加速した時代です。千住のガスタンクやお化け煙突など、長く下町のランドマークとして親しまれた建造物が次々と生まれていました。またエロ・グロ・ナンセンスを地で行くエノケンのカジノ・フォーリーや、女給がサービスするカフェーなど、独特の文化が浅草の劇場街などを中心に巻き起こっていました。

利行の絵が面白いのは、毎日のようにその近辺を歩き回って日々変わる風景を楽しみ、劇場で居合わせた人たちと軽口なんかをたたき合いながらその場で筆を走らせたのであろう、『現場感』というべきものが絵に溢れているところです。しかも、きっと当時も綺麗とは言いがたかったと思われる工場街や、猥雑な繁華街などを、明るく、目の覚めるような美しい風景として描いています。

利行は京都出身ではありますが、だれよりも東京を美しく描いた、東京の画家であると言って良いのではないでしょうか。

長谷川利行《白い背景の人物》〔1937(昭和12)年 油彩・カンヴァス 個人蔵〕

貧民街で暮らし、行き倒れの末に養育院で亡くなったという悲惨な人生のイメージが語られることが多い利行ですが、その絵には明るい輝きと、絵を描くことが幸せという純粋な幸福感が溢れています。ぜひ、その絵のパワーを感じて、東京の魅力も再発見していただければと思います」

明るくて自由奔放、でもどこか哀しいリコウの絵。会場で心ゆくまでご堪能ください。

【開催要項】
長谷川利行展 七色の東京
会期:2018年5月19日(土)~7月8日(日)会期中一部展示替えあり
前期5月19日(土)~6月10日(日)後期6月12日(火)~7月8日(日)
会場:府中市美術館
住所:東京都府中市浅間町1-3(都立府中の森公園内)
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/
開館時間:10時から17時まで(入場は16時30分まで)
休館日:月曜

※会期終了後は以下の美術館を巡回します:碧南市藤井達吉現代美術館(7月21日~9月9日)、久留米市美術館(9月22日~11月4日)、足利市美術館(11月13日~12月24日)

取材・文/池田充枝

 

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