選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
ヘンデルというと、バッハと双璧をなすバロックの大作曲家として、「水上の音楽」や「メサイア」のイメージが強いかもしれない。が、フランスの世界的カウンターテナー(男の裏声アルト)のフィリップ・ジャルスキーが歌う『ヘンデル:オペラ・アリア選集』を聴くと、この作曲家が真に精魂傾けたオペラのジャンルが、いかに音楽の宝の山だったかということを、うかがい知ることができる。
ジャルスキーの柔らかい声は、少年のような純粋さと澄み切った高音、成熟した大人の知性を兼ね備えたもので、一度はまったら病みつきになるような誘惑性がある。
ジャルスキー率いる古楽アンサンブル「アルタセルセ」のしなやかで鋭敏な演奏も、耳に快い。愛や優しさ、怒り、絶望や死についての激しい感情を表したアリアの数々は、知名度の高くない作品ばかりからとられているが、それだけに未知の発見への興奮がある。※試聴はこちらから
【今日の一枚】
『ヘンデル:オペラ・アリア選集』
フィリップ・ジャルスキー
2017年録音
発売/ワーナーミュージック・ジャパン
商品番号/WPCS-13727
販売価格/2600円
http://wmg.jp/
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年2月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。