まるで時が止まったかのような古びた駅舎には、得も言われぬ郷愁とロマンとを感じずにはいられない。そんな味わい深い駅舎の数々をフォトライター杉﨑行恭さんが紹介する『サライ.jp』の連載「訪ねて行きたい鉄道駅舎」で、これまで取り上げられた全国のレトロな駅舎をまとめて紹介しよう。

■1:鳥居本駅(近江鉄道本線)
――旧宿場町に佇む赤い腰折れ屋根の駅舎

鳥居本駅 (1)

1931年(昭和6)の近江鉄道彦根〜米原間の開業とともに置かれた鳥居本駅の駅舎は、印象的な玄関の屋根と四角い煙突がまるで童話の世界のようなムードを醸し出す。

さらに待合室天井には、ハンマービームと呼ばれる西洋風の小屋組を露出させて空間を確保し、半円形の窓とあい余って、西日の差す午後には、駅舎というより教会の講堂のような雰囲気になる。(>>詳細記事はこちら

鳥居本駅 (3)

【近江鉄道本線 鳥居本駅】
■所在地:滋賀県彦根市鳥居本町647
■開業年月日: 1931年(昭和6年)3月15日
■アクセス:米原駅から近江鉄道本線 各停で7分

*  *  *

■2:白河駅(東北本線)
――みちのくの玄関にふさわしい風格漂う洋館駅舎

白河駅。

北を目指して走る東北本線の列車が福島県に入ると、最初に現れる町が白河市だ。古くから「白河の関」を超えるとみちのく・東北地方に入るということから、例えば「甲子園の優勝旗は白河の関を越えず」という言い方で、東北の高校がいまだ優勝していないことを意味したりする(一足先に北海道は優勝しているが)。

JR東北本線白河駅は、そんな東北の玄関にふさわしい構えの木造駅舎だ。駅前広場に向かって二等辺三角形のファサードを見せ、中央に時計を置いて幾何学的なパターンで飾っている。急角度の屋根は西洋がわらで覆われ、柱を浮き立たせたハーフティンバーの壁が左右に張り出して洋風建築らしい風格を漂わせる。

改札口の前にはヒマラヤスギが茂る中庭があり、地下道でホームに連絡している。そのホームからは戊辰戦争の激戦地・小峰城址が手にとるような近さだ。(>>詳細記事はこちら

小峰城。

【JR東北本線 白河駅】
所在地:福島県白河市郭内222
開業年月日:1887年(明治20)7月16日
アクセス:東北新幹線新白河駅からJR在来線で3分

*  *  *

■3:西桐生駅(上毛電気鉄道)
――関東の産業都市に残るモダンな駅舎

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群馬県の前橋市と桐生市を東西に結ぶ「上毛電気鉄道」の西桐生駅は、終点の駅らしくホームの先にある頭端式のターミナルで、そこに昭和3年(1928)の上毛電鉄開業時からの風格のある駅舎が建っている。

南向きに構えた洋館スタイルで、小さいながらも車寄せを張りだす玄関の上には印象的なマンサードスタイルの屋根があり、ファサード(正面)にはガラスとモルタルのレリーフが飾られている。

それに続く寄棟屋根の待合室には壁面全体はモルタルで塗られ、タイルが張られた腰壁と上げ下げ窓を持ち、どこか外国の小駅を思わせるモダンな構えだ。

そんな西桐生駅駅舎は過去に、何度も映画の撮影で使われたという。納得である。(>>詳細記事はこちら

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【上毛電気鉄道 西桐生駅】
所在地:群馬県桐生市宮前町2−1−33
開業年月日:1928年(昭和3)11月10日
アクセス:上毛電鉄中央前橋駅から電車で50分・JR両毛線桐生駅から徒歩3分

*  *  *

■4:美作滝尾駅(JR因美線)
――時が止まったかのような木造駅舎の原風景

美作滝尾 (1)_s

中国山地の真ん中に開ける津山盆地。吉井川がつくり出した平原には出雲街道が通り、穏やかな丘陵に囲まれた里山風景が広がっている。

その津山から鳥取までを結ぶ因美線のディーゼル気動車に乗って17分ほど、たんぼの中の大きな桜の木がある古びた駅に出る。美作滝尾(みまさかたきお)駅だ。

駅舎は昭和3年の因美南線(当時はそう呼ばれていた)開業時からのもので、赤瓦の切妻屋根に板張り、軒先だけが漆喰という、嬉しくなるようなローカル駅舎の構えだ。

出札口や手小荷物扱所の窓口もよく保存され、待合室にいるとタイムスリップしたような気持ちになる。

時を経た木造駅舎は地元の人達によって清掃され、駅前の松の木も美しく剪定されている。また駅名看板も含めて極力国鉄時代に戻しているのもうれしい。

春、駅頭の桜が花をつける頃には、日本屈指の鉄道風景が見られるだろう。(>>詳細記事はこちら

美作滝尾 (8)_s

【JR因美線 美作滝尾駅】
所在地:岡山県津山市堀坂263
開業年月日:1928年(昭和3)3月15日
アクセス:JR岡山駅から津山線経由、津山駅で乗りかえて約2時間

*  *  *

■5:八瀬比叡山口駅(叡山電鉄本線)
――鉄骨屋根のレトロな終着駅

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鴨川に近い叡山電鉄の始発駅、出町柳駅を出た1両のワンマン電車は宝ヶ池駅から鞍馬線と分かれて進路を東向きに変える。すると目前に比叡山が現れる。電車はそこに向かって、緩やかな勾配を登っていく。

終着駅の八瀬比叡山口駅は、まさに平地が尽きて、そこからは急斜面の山腹が始まるところにある。

電車は細い鉄骨で組まれた古い大屋根の中に停車する。屋根は1番・2番線に降車用の3本のホームを覆っているが、奥行きは車両1両の半分しかなく、電車が半分外に出てしまうほどのサイズだ。

駅舎はその脇に玄関を構えている。ターミナルでありながらコンパクト、この駅をそのまま鉄道のジオラマにしたくなるような風景だ。(>>詳細記事はこちら

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【叡山電鉄本線 八瀬比叡山口駅】
■ ホーム3面2線の頭端駅
■所在地:京都府京都市左京区八瀬野瀬町113
■開業年月日:1925年(大正14)9月27日
■アクセス:叡山電鉄出町柳駅から14分

>>次のページに続きます。

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