選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
日本におけるエリック・サティの受容に最も大きな役割を果たし、現代作品からシューベルトまで独自のレパートリーで光彩を放っているピアニスト、高橋アキの忘れがたい重要な仕事が、1989年から92年にかけて世界14か国の47人の作曲家にビートルズの楽曲のアレンジを委嘱したことである。
かつて旧東芝EMIで出ていたこのシリーズ、ついに待望の再録音が開始された。その第1弾『ハイパー・ビートルズ Vol.1』は期待をはるかに上回る見事なものだ。
ビートルズが本来持っているメロディの抒情性や反逆的なロックの精神を生かしながらも、クラシックの現代作曲家たちのアレンジはひと癖もふた癖もあり、恰好の現代音楽入門ともなっている。
高橋アキのしなやかな演奏は、クラシック音楽を全く知らない人にもきっと心地よいはずだ。なかでも武満徹の編曲による「ゴールデン・スランバー」のノスタルジックな味わいは格別である。(※旧盤はこちらから試聴できます)
【今日の一枚】
『ハイパー・ビートルズVol.1』
高橋アキ(ピアノ)
2016年録音
発売/カメラータ・トウキョウ
電話:03・5790・5566
商品番号/CMCD-28345
販売価格/2800円
写真・文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2017年11月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。