山形県南陽市。米沢盆地にある赤湯温泉は開湯900余年という歴史ある温泉地です。赤湯の名は、戦いで傷ついた兵たちが入浴し、その血で湯が赤く染まったからといわれています。
米沢藩政時代には、殿様が入る御殿湯も設けられました。泉質は塩化物泉で、神経痛に効用があり、飲用では糖尿病や便秘などに効果があります。
冬は深い雪に覆われる温泉地ですが、春は桜名所・烏帽子山公園の桜が美しく咲き乱れ、夏は田畑が緑に染まり、牧歌的な風景となります。
明治11年(1878)、東北を旅したイギリス人、イザベラ・バードはその旅行記『日本奥地紀行』で、米沢平野は南に繁栄する米沢の町があり、北には湯治客の多い温泉街の赤湯があり、まったくエデンの園であると、称賛しています。そしてさまざまな作物が豊かに実り、微笑する大地であり、アジアのアルカディアだと。
アルカディアとは桃源郷のこと。特産のブドウがたわわに実るその趣は今も変わりません(写真は「いきかえりの宿瀧波」の大浴場)。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。