開湯400年、吾妻(あづま)連峰の深い原生林に囲まれる福島市・高湯温泉。ここは湯治場として長い歴史を刻み、昔から一切の鳴り物を禁ずるというしきたりがありました。そのため今でも歓楽の要素の一切ない、山の中の静かないで湯です。
その雰囲気を愛した文化人は多く、なかでも東北を代表する歌人・斎藤茂吉は大正5(1916)年の夏に逗留(とうりゅう)し、
山の峡(かい) わきいづる湯に 人通ふ 山とことはに たぎち霊し湯
の歌を残しています。
泉質はアルミニウムやカルシウムなどの成分が多く含まれる硫黄泉で、乳白色のお湯が体の芯から温めてくれます。高血圧や動脈硬化などに効能があり、大自然に抱かれて白濁の温泉に浸ると、日常の生活で凝り固まった体と心が解されていくようです。共同浴場「あったか湯」もありますが、できれば2〜3日くらいはのんびりと旅館に滞在し、じっくり心身を癒したいものです。
近くには落差30mの不動滝があり、遊歩道が整備されて滝壺まで行くことができます(写真は「安達屋」)。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。