歳をとるというのは厄介なものですよね。周りからは、年相応に物知りなどと思われたりして……。うっかり漢字の読み⽅なんか間違えたりしますと、とっても恥ずかしい思いをするなんてこともあるかもしれません。
脳の⽅は、若い時のようにパッパと記憶中枢からひっぱり出せなくなってきているかもしれませんが、「歳をとってきちゃって、なかなか思い出せなくて……」なんて⾔い訳をするようでは、サライ世代の沽券に関わる?
「脳トレ漢字」今回は、「剣吞」をご紹介します。知っているようで知らない、奥深い世界を一緒に旅してみましょう。

「剣呑」は何と読む?
「剣呑」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「けんのん」です。
『小学館デジタル大辞泉』では「危険な感じがするさま。また、不安を覚えるさま」とあります。漠然とした「危ない感じ」や「張り詰めた緊張感」を指す表現です。例えば、「この場の雰囲気が剣呑だ」という使い方をします。
「剣吞」の由来
この言葉は元々「剣難(けんなん)」という熟語が語源です。「剣難」は「刀剣による難、すなわち刃物で傷つけられる災難」を意味し、「危険が迫っている」という意味合いがありました。そこから、音便化と漢字の当て字として「けんなん」→「けんのん」と変化し、「剣呑」の漢字があてられたのです。
「剣呑」という漢字は「剣(つるぎ)」と「呑(のむ)」が組み合わさっています。つまり、直訳すると「剣を飲み込む」ようなイメージで、「剣のような危険や緊張感を飲み込むほど緊迫している」という意味合いが暗示されています。

「危険」「物騒」との違いとは?
「剣呑」には、「危険」や「物騒」といった類義語がありますが、どのように使い分ければいいのでしょうか?
「危険」という言葉は、客観的に害や損害が起こる可能性が高い状態を指します。「この先、落石の危険あり」のように、物理的な危うさを示す場合によく使われます。
一方、「物騒」は、事件や事故が起こりそうな、穏やかでない世の中の様子や雰囲気を指します。「物騒な世の中になった」「夜道で物騒な物音を聞いた」など、より社会的な不安感や治安の悪化を含んだ言葉です。
では、「剣呑」はどうでしょうか? この言葉の真骨頂は、客観的な危険性だけでなく、そこにいる人の主観的な不安感や、場の不穏な空気感を表現する点にあります。
例えば、「会議室には、二人の役員の間に剣呑な空気が流れていた」という使い方。この時点では、まだ何も事件は起きていません。しかし、いつ激しい口論が始まってもおかしくないような、一触即発の緊張感や、そこにいる者が感じる居心地の悪さ、精神的な圧迫感が見事に表現されています。
物理的な危険だけでなく、人間関係から生まれる精神的な危うさをも描き出せるのが、「剣呑」という言葉の持つ奥行きなのです。インターネット上の誹謗中傷や、些細なことから生じるご近所との軋轢など、現代社会に潜む「剣呑な状況」は、意外と身近に存在するのかもしれません。
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いかがでしたか? 今回の「剣呑」のご紹介は皆様の漢字知識を広げるのに少しはお役に⽴てたでしょうか? 何かと剣呑な話題が多い世の中ですが、言葉の正確な意味と背景を知ることで、少しだけ冷静に物事を見つめられるようになるかもしれませんね。
来週もお楽しみに。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
