歳を重ねるにつれ、大切な人たちとの別れが多くなることは否めません。大切な人が亡くなったあと、「こうしてあげたかった」とか「ああすれば良かった」と後悔をした人もいることでしょう。医師であり、エッセイストである川村隆枝さんの最新刊『亡くなった人が教えてくれること 残された人はいかにして生きるべきか』(アスコム)は、そんな人たちにそっと寄り添ってくれる一冊です。

川村さん自身もこの10年で、父、母、そして夫と、最愛の人達との別れを経験し、後悔の連続で胸が痛く、寂しい夜を過ごすこともあるとのこと。日にちが経つと悲しみは薄れていくと言いますが、決してそうではないことも実感されています。それでも、残された人は生きなければなりません。川村さんがさみしさに向き合いながらも、静かに、自身のために生きている様子は、同じくさみしさに打ちひしがれている人たちが前を向いて歩き出すためのきっかけになるはずです。今回は、「さみしさと向き合う心構え」についてお伝えします。

文/川村隆枝

「あのとき、こうしていれば」と過去を悔やむときには

寿命に個人差があるのは、なぜでしょう? 長生きをしようと、どんなに努力しても叶わない人もいれば、もうダメだと思っても、奇跡的に一命を取り留める人もいます。私の経験からも「なぜこの人は助かったのか?」「なぜこの人は助からなかったのか?」と疑問に思ったケースが多々あります。例えば、外傷で救急搬送され、心肺停止で瞳孔散大(ほとんど死亡の兆候)も見られた患者さんが心肺蘇生後、脳障害もなく生き返った例、胸部大動脈破裂で意識のなくなった90代の人が手術によって助かった例などがありました。反対に50代の一見健康な人がマラソン後に倒れて救急搬送され、心肺蘇生後生存されても、脳障害のため寝たきりになってしまった例など、老若男女、年齢にかかわらず救出できた場合とそうでない場合を考えると、その人の運命としか言わざるを得ません。

医学の発展に伴い、適切な検診や治療を受けても、どんなに腕のいい医師でも助けられる命とそうでない場合があるのは、その人が生まれながらに持った運命と思えば理解できます。そう考えれば奇跡的な生還を果たすこともあるし、逆に、生まれ持った寿命によって、思いがけず人生を終えることもあり得ます。主人が闘病生活をしていたときに真っ先にお見舞いに来てくれた元気な人が交通事故でお亡くなりになったり、反対にがんを患っていた人が長生きしたりしていることも容易に納得できるものです。

私が勤務する老健たきざわでも寿命の不思議に出会います。最近はご本人の負担を考えて、経管栄養(チューブやカテーテルを通して、胃や腸に直接栄養剤を注入すること)をせず、口から食べられるだけ食べて、点滴をして寿命を全うするように希望されるご家族が多いのですが、「これでどのぐらい生きられますか?」という質問に戸惑います。なぜなら個人差があって一様に言えないからです。経管栄養をしないで、点滴のみになると栄養が入らず水分補給のみになりますので、体力が低下して老化も早まります。点滴のみだと早い人で1週間くらいで亡くなる方もいらっしゃいますし、長い人は数か月も寿命が伸びる方もいます。これもその方が生まれ持った寿命(運命)と言えましょう。

一人ひとりの寿命は、運命的に決まっていて、病気に限らず、事故や災害での突然の死も、本人が生まれ持っているものだとすれば、「運命」を受け入れるのも一つの選択肢ではないでしょうか。家族や友人が早すぎる死を遂げたとき、「あのとき、あれをしてあげていれば」などと過去を悔やむことは多いけれど、「これがあの人の寿命だったのだ」と思えれば、前に進むことができるのではないでしょうか。主人もそういう運命だったのでしょうと、七回忌を前に私もやっとそう思うことができるようになりました。彼の最期に残した言葉「俺たち、いい夫婦だったよな」「好きだよ、好きだよ」は、自分の寿命が近づいたことを悟ったからこその言葉だったのではないでしょうか。この言葉から彼は幸せだったと信じ、私もまた、これほど愛した人はいない、彼に出会えたことに感謝し、これからは、残された者として故人のぶんまで、長生きをして、故人がおそらくやりたかったことを念頭に、前に進んでいきたいと思います。

大切な人を失ったあなたもそう考えてはいかがでしょうか。

*  *  *

亡くなった人が教えてくれること 残された人はいかにして生きるべきか
川村隆枝
アスコム 1,650円(税込)

川村隆枝(かわむら・たかえ)
医師・エッセイスト。
1949年、島根県出雲市生まれ。東京女子医科大学卒。同医大産婦人科医局入局。1974年に夫の郷里の岩手医科大学麻酔学教室入局、同医大付属循環器医療センター麻酔科准教授。2005年(独法)国立病院機構仙台医療センター麻酔科部長。2019年より、岩手県滝沢市にある「老人介護保険施設 老健たきざわ」施設長に就任。仙台で麻酔科医として多忙な日々を送るなかで、自身の体験をつづった『心配ご無用 手術室には守護神がいる』を上梓。本書は鈴木京香・三浦友和主演で映画化される。その後も、医師や、介護施設の施設長として働きながら、夫の介護や介護施設での経験をもとにエッセイを執筆。エッセイストとしても活躍を続けている。

 

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