
日本人の約8割が「疲れている」と回答するなど、疲労は現代的な“国民病”と言われます。仕事や人間関係のストレス、運動や睡眠の不足、スマートフォンへの依存など、様々な原因が指摘されますが、医学的に間違った「食事のあり方」を問題視するのが牧田善二医師です。新著『疲れない体をつくるための最高の食事術』が話題の牧田医師が解説します。
解説 牧田善二(まきたぜんじ)さん(糖尿病・アンチエイジング専門医)

牧田式ミラクルフード:グラスフェッド食材
日本で牛や豚などの家畜を飼育するときには、たいてい、人工的に配合した穀物類を餌として与えます。炭水化物が多い高エネルギーの餌を与えて畜舎で育てると、動物は脂肪分が多い体になるからです。こうした飼育法は「グレインフェッド」(穀物飼育)と呼ばれます。
これに対して、「グラスフェッド」(牧草飼育)と呼ばれる飼育法は、牧草を餌として与え、放牧を基本とします。運動量が多いので、動物は引き締まった体に育ちます。
こうしたグラスフェッドで育てられた牛の肉やミルクといった食材は、ビタミンやミネラル、アミノ酸などが豊富に含まれているため、最近は意識が高い人に向けた食品にも利用されるようになりました。
もっとも、グラスフェッド食材の健康効果は、以前より指摘されていました。
歯科医のW・Aプライス博士が、1930年代から調査した中で、とくに健康な人が多かった地域の一つに、スイスのレジェンド渓谷という隔絶された村がありました。
当時、世界中で恐れられていた結核などの感染症はゼロで、みんな心肺機能が高く、驚くほど歯がきれいだったそうです。
そんな彼らがよく摂っていたのが、全粒粉のパンと、グラスフェッドの牛乳やチーズです。グラスフェッドの牛乳やチーズに含まれるビタミンやミネラルの含有量は、普通の牛乳を用いた製品と比較して遙かに高かったそうです。
ただ、土地の狭い日本では牧草地が確保しにくく、なかなかグラスフェッドが普及しにくい一面があります。そのため、どうしても輸入に頼り、価格も高く、購入できる店も限られます。
それでも、牛肉や牛乳、バターやチーズなどの乳製品は、グラスフェッドにするのが、健康を考えたときの理想です。私自身、手間をかけてもグラスフェッド食材を取り入れるようにしている理由を説明しましょう。
グラスフェッドの牛肉
畜舎で育ったグレインフェッドの牛は、早く成長させるために肥育ホルモンを注射されているケースがあります。この肥育ホルモンは成長促進を目的としたもので、発がん性が指摘されています。また、狭い畜舎での病気感染を防ぐために抗生物質も使われます。
これら肥育ホルモンや抗生物質が使われた牛肉を食べることで、私たちの体にどのような悪影響があるかわかりません。
一方、牧草を探しながら動き回っている牛は、そうした心配がないばかりか、畜舎で育てられた牛と比較して、赤身が多く脂肪分の少ない肉質となります。霜降り肉とは違った歯ごたえのある肉本来の味が楽しめます。
また、グラスフェッドの赤身肉には、疲労回復に必要なビタミンやミネラルがたくさん含まれています。
健康に良い脂質である「オメガ3脂肪酸」も、グレインフェッド牛の2〜5倍含まれます。オメガ3脂肪酸は血流を良くし、皮膚細胞の新陳代謝を活発にするので、美肌効果も期待できます。
さらに、良質の睡眠が得られる可能性も高まります。
グラスフェッド牛には、必須アミノ酸の一種である「トリプトファン」が多く含まれます。体内に取り込まれたトリプトファンからはセロトニンが生成され、そのセロトニンからメラトニンが生成されます。
セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれるように、心を穏やかにしてくれます。ストレスだらけの現代人にとって、精神的な疲れを癒すために欠かせません。
メラトニンは、催眠作用のあるホルモンで、睡眠と覚醒のサイクルを整えます。
こうしたホルモンの働きによって質の良い睡眠が得られれば、それだけ疲労の回復も早くなります。
グラスフェッドの牛乳
牧草地で放牧された牛から取れるミルクは、「グラスフェッドミルク」と呼ばれます。多くの牛乳はグレインフェッドで育てられた牛から搾られ、そこにはやはり肥育ホルモンや抗生物質の心配がつきまといます。
グラスフェッドミルクはそうした不安がなく、ビタミンやカロテンなどの栄養素も豊富に含まれています。カロテンには、皮膚や粘膜を丈夫にしたり、免疫力をアップしたりする効果があります。
グラスフェッドミルクは濃厚でありながら後味がスッキリしており、そのまま飲むのはもちろん、カフェオレやミルクティーにも向いています。
グラスフェッドの乳製品
グラスフェッドミルクからつくられるバターやチーズは、肥育ホルモンや抗生物質が使用されていないので、一般の牛乳からつくられるものより安心です。
グラスフェッドバターは、原料のミルクに含まれるカロテンの色素から、一般的なバターより濃い黄色をしています。不飽和脂肪酸が多く、体に吸収されやすいため、美容や健康を考えた人たちに好まれているようです。
グラスフェッドチーズは、ミルクを凝縮したようなコクのある味わいです。モッツァレラやゴーダなど、さまざまなタイプのチーズがあります。そのままワインのつまみにするだけでなく、サラダやパスタなどの料理に活用してもいいでしょう。
こうしたグラスフェッドの食材を取り入れることで、心身への健康効果が得られることはもちろん、意識の面でもプラスになります。
少しずつグラスフェッドの食材を取り入れるようになった私の知人は、食に対する関心がかなり高まったそうです。
それまで、自分が口にするものが「誰によってどうつくられたのか」など考えたこともなかったのに、「食品のルーツを辿ることの大切さ」に気づいたというのです。
その結果、食品を買うときはおのずと産地や添加物などをチェックするようになり、オーガニック食品を買う機会が増えたと言います。
日頃から口にする食材について深く考えることは、これまでとは違う体を手に入れることに繫がります。
「疲れた」と言いつつ、さらに疲労を蓄積するような食事や食習慣を繰り返し、慢性疲労を嘆くような生活はもう終わりにしましょう。
あなたの心掛け次第で、苦もなく疲労と決別できる日は必ずやってきます。
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世界最新の医学的データと20年の臨床経験から考案『疲れない体をつくる最高の食事術』
現代人の疲れは過労やストレスではなく、「食」にこそ大きな原因がある。誤った知識に基づく食事は慢性疲労ばかりか、肥満や老化、病気をも呼び込む。健康長寿にも繋がる「ミラクルフード」の数々を、最新医学データや臨床経験を交えながら、具体的かつ平易に解説している。

牧田善二/著 四六判208ページ 小学館刊 1650円(税込)










