今の日本は少子高齢化の急速な進展により、人口が減少しています。このような社会情勢の中で、働く意欲のある高齢者が活躍する環境を整備するために、作られたのが高年齢者雇用安定法です。この法律は何度か改正が行なわれ、現在は希望者が65歳まで働き続けることのできる措置をとることは、企業の義務となっています。

さらには、65歳以上の就業についても法整備が進んでいます。今回は、65歳以上の働き方を中心に、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
65歳の再雇用は義務化される?
2025年の法改正内容
定年延長が求められる理由
まとめ

65歳の再雇用は義務化される?

高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保と、70歳までの就業について整備が進んでいます。65歳までと65歳以上の法令の違いについて、見ていきましょう。

65歳までの雇用は?

高年齢者雇用安定法において、65歳までの雇用確保が法制化されたのは、今から10年以上前の2013年のことです。この改正により、60歳未満を定年とすることは禁じられ、高齢者が65歳まで働ける環境が整いました。この制度の対象者は原則として、希望者全員です。

企業は65歳までの雇用確保のために、「定年の廃止」「定年年齢の引き上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を取らなければなりません。令和5年(2023)に厚生労働省が発表した『高年齢者雇用状況報告書』によると、7割近くの企業が継続雇用制度の導入を選択しています。現状では多くの人が、再雇用制度などを利用して働き続けています。

65歳以上はどうなる?

65歳以上の人はどうでしょうか? 現段階では、65歳以上の人の雇用確保は企業の義務とはなっていません。ただし、2021年の法改正で70歳までの就業確保措置が努力義務として追加されました。就業確保という言葉になっているのは、必ずしも雇用のみを指しているのではないからです。継続的に業務委託契約を結ぶ制度や、事業主の実施する社会貢献事業で働く制度、さらに創業支援措置なども提示されています。

実態はどうかというと、創業支援や定年延長などの措置はまだ少数であり、多くの企業が再雇用制度などを実施しています。就業確保措置は努力義務にとどまっていますが、前述の『高年齢者雇用状況報告書』では、66歳以上まで働ける制度のある企業の割合は43.3%となっており、4割を超えています。

こうした制度は、規模の小さい会社ほど導入率が高くなっています。中小企業の場合、大企業に比べて人手が不足しているという事情が影響しているといえるでしょう。

2025年の法改正内容

高年齢者雇用安定法は、2025年4月にも改正が行なわれる予定です。現行では、65歳までの雇用確保義務の対象は原則として希望者全員ですが、一部労使協定などで対象者を限定する経過措置が残されています。この経過措置は、2025年3月までで終了し、4月から65歳までの雇用確保は完全義務化されることになります。

今でも、すでに65歳までの雇用確保措置を実施済の企業は99%以上に達していますが、完全義務化と定められることにより、高齢者が働く環境の整備は一層進むと思われます。もうひとつ、高齢者の雇用と密接な関係があるのは、雇用保険の高年齢雇用継続給付金の給付金の改正です。

この制度は、60歳以後も働き続ける人の60歳以後の賃金が、60歳到達時の賃金の75%未満になった月について、給付金が払われる制度です。支給される給付金は、賃金の減額率により支給率は変わりますが、最大で各月の賃金の15%が支給されます。

制度の対象者は?

制度の対象者は、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある労働者となっており、60歳から65歳までの期間限定の給付です。

継続して働く人だけでなく、60歳以後に再就職した人も対象になります。2025年施行の改正では、この給付率が最大15%から10%に縮小されます。この制度は、もともと高齢者の生活安定と企業に、高齢者の雇用確保を促すことを目的としていました。

すでに、65歳までの雇用確保がほぼ達成されたことにより、将来の制度廃止を視野にいれた改正といえるでしょう。今後は給付金制度に頼らずに、高齢者の働く環境をより一層改善していくことが望まれます。

定年延長が求められる理由

高齢者が働き続けるための法整備は、次々と進んでいるのは、少子高齢化の急速な進展にブレーキがかからないことが背景にあるといえるでしょう。若年層の減少により、企業の人手不足は深刻になっています。外国人雇用なども進んではいますが、経験豊富な高齢者の活躍を後押しすることにより、人材を確保したいという企業は数多くあります。

働く側にとっても、長く仕事を続けられることはメリットがあります。人生100年時代となり、人の老後は長くなりました。60歳で定年になったとしても、まだまだ健康で体力もある人はたくさんいます。老後の生活設計のためには、高齢になっても働きたいと考える人が多いのは自然なことでしょう。実際に、定年後の継続雇用制度を導入している企業では、8割以上の人が制度を利用して働く道を選択しています。

働く高齢者の待遇改善

働き続けるための雇用確保措置は、定年後の再雇用などの継続用制度だけではありません。定年の廃止、定年年齢の引上げなど、社員のまま仕事を続けられる会社もあります。定年後再雇用だと、有期雇用契約となりますので待遇面の変化も大きくなりがちで、正社員と比べると不安定な立場であることは否めません。高齢者雇用継続給付金の縮小に加え、今後70歳までの就業が奨励されている今、働く高齢者の待遇改善は重要です。

令和5年の調査段階では、定年を60歳としている企業の割合はまだ6割を超えています。一方で継続雇用制度などを含めると、66歳以上でも働ける企業の割合も増えつつあります。今後は、高齢者が定年延長などの措置により、安定した働き方ができるような環境整備が重要になると思われます。

まとめ

少子高齢化が問題とされるようになったのは、1970年代からのことですが、今や日本は超高齢化社会に突入しています。政府は少子化対策に注力していますが、期待通りの結果が出ているとはいえないようです。今後も経済社会の活力を維持していくためには、高齢者の活躍は欠かせません。働く人たちの環境改善が進み、どの世代の人も生き生きと働けるようになってほしいものです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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