出生率の低下などに伴って若者の人数は減り続けており、働く現場にも少子高齢化の波は押し寄せています。令和の時代、65歳以上になっても働き続けることは珍しいことではなくなりました。平均寿命が延び、人生100年という言葉も聞かれるようになった今、健康であるかぎり働きたいという人は数多くいると思います。

実際に、65歳前と変わりなく第一線で働いている人は少なくありません。ただ、やはり65歳以上となると、老後の仕事というイメージを持っている人も多いのではないかと思います。65歳を超えてなお働いている場合、雇用保険に加入するメリットはあるのでしょうか? 今回は、65歳以上で雇用保険に加入するメリットについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
65歳以上で雇用保険に加入するメリットとは
基本手当と高年齢求職者給付金の違い
退職する年齢を決める際のポイントとは?
まとめ

65歳以上で雇用保険に加入するメリットとは

65歳以上になっても仕事を続けている人の働き方は様々です。定年延長により今までの仕事を継続している人、定年は迎えたものの、再雇用で同じ会社で働いている人、勤めていた会社を退職後に別の職場で働き始めた人もいます。いずれの場合であっても、雇用保険の被保険者になれる要件は同じです。所定労働時間が週に20時間以上あることと31日以上雇用される見込みがあること。この二つです。

継続して同じ会社で働いている人は、労働時間の要件をクリアしているかぎり、被保険者期間が続いていることになります。被保険者の区分としては、65歳未満は一般被保険者、65歳以上は高年齢被保険者と分けられます。この両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

在職中の雇用保険の給付は育児・介護休業給付、教育訓練給付などがありますが、これらの給付は、高年齢被保険者であっても一般の被保険者と給付の要件に差はありません。家族の介護なども多い世代であることを考えると、雇用保険に加入していることは大きなメリットがあります。リスキリング(新たなスキルを習得すること)が奨励されている時代ですから、65歳以上でも資格取得の勉強などで教育訓練給付を活用する例もあります。

しかしながら、在籍中の給付の中には65歳以上だと受けられない給付もあります。それは、高年齢雇用継続給付金です。この制度は、継続して働いている60歳以上になったとき、あるいは60歳以上で再就職したとき、賃金が60歳前に比べて75%未満になった場合に減額率に応じて補填となる給付金を受給できるというものです。

この給付金が受給できる年齢は、60歳から65歳に達した月までの間です。65歳になった月より後はたとえ働いていても給付はなくなりますので、そこは知っておきましょう。今までの話は在職中の給付のことでしたが、退職後の給付となると大きく異なります。次に退職後の給付について詳しく見ていきます。

基本手当と高年齢求職者給付金の違い

65歳以上であっても未満であっても、退職後もなお働く意思があれば失業ということになります。失業者を対象とした雇用保険の給付は求職者給付と言いますが、離職時の年齢が65歳未満の場合は基本手当、65歳以上の場合は高年齢求職者給付金という名称になります。そもそも、求職者給付は雇用保険の被保険者であった人でないともらえませんから、それだけでも雇用保険に加入することはメリットがあると言えるでしょう。

ただし、基本手当と高年齢求職者給付金では、受給できる金額や要件はまったく違います。どちらも1日当たりの金額は、離職前の賃金をもとに一定の率をかけて計算されますが、給付日数は異なります。基本手当はいわゆる失業手当と呼ばれる給付ですが、被保険者期間や離職理由によって給付日数が決まります。定年や自己都合の退職の場合、給付日数は被保険者期間によって90日から150日になります。

会社都合の退職の場合は特定受給資格者となり、被保険者期間や年齢によって90日から最長330日まで受給することができます。基本手当を受けるためには求職活動をすることが前提で、4週間に1度失業認定を受ける必要があります。一方で高年齢求職者給付金は一時金であるため、失業認定日も1回きりで、その後の求職活動については問われません。

ただし、受給できる日数は被保険者期間が6か月以上の1年未満の場合は30日、1年以上で50日となっており、それが上限です。つまり、もらえる総額という点では、65歳未満の人が受ける基本手当のほうが高年齢求職者給付金より上回ることになります。

退職する年齢を決める際のポイントとは?

退職後の雇用保険の給付に目を向ければ、離職時の年齢が65歳未満のほうが多い金額になることは事実です。そのため、今の会社を65歳で退職して次の仕事を探そうという人ならば、64歳のうちに退職したほうが良いと考えるのは無理からぬことです。基本手当をもらいながら職探しをしたほうが、高年齢求職者給付金をもらうより経済的に有利だからです。

では、65歳前に退職した方が良いのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。65歳を過ぎても働ける会社ならば、失業のブランクなしに、少しでも長く働いたほうが経済的にはプラスになります。さらに厚生年金にも加入している場合は、働く月数が増えれば増えるほど年金額は増加しますから、その点でも仕事を続ける意味があると言えるでしょう。

65歳より前に退職して基本手当を受ける人には、ひとつ注意しておかなければならないことがあります。65歳未満であっても、特別支給の老齢厚生年金や繰り上げ支給の老齢厚生年金を受給している人もいるかと思います。基本手当を受給している間は、65歳未満の老齢厚生年金は支給停止になります。その点もしっかりと計算に入れておきましょう。

まとめ

65歳を超えてからの老後の人生設計は人それぞれです。同じ会社で働き続けることもありますし、転職することも、あるいは完全にリタイアして趣味や生活を楽しむ選択肢もあるでしょう。価値観の違いもありますし、健康状態や体力には個人差があります。いつまで、どのように働くかということを考える上で、雇用保険や年金について正しい知識を身につけることは大きな助けになります。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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