少子高齢化の急速な進展により、働く意欲のある高齢者の活躍の場は広がりました。定年退職後、再雇用などの形で会社に残って働き続ける人の数は増えています。定年後再雇用は、定年退職後に会社と雇用契約を結んで仕事を続ける制度です。しかしながら、1日もブランクなく再雇用されたとしても、一度定年退職するわけですから、退職、雇入れの手続きが必要になります。

この場合、社会保険の扱いはどうなるのでしょうか? 今回は、定年後再雇用の社会保険について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
定年後、再雇用された時の社会保険
再雇用の社会保険の手続き
同日得喪手続きとは
まとめ

定年後、再雇用された時の社会保険

高年齢者雇用安定法では、希望者全員の65歳までの雇用確保は企業の義務となっており、70歳までの就業も努力義務になっています。雇用確保の措置が、定年廃止や定年年齢の引き上げである場合は、正社員のまま雇用形態は変わりません。けれども、再雇用ということになると、一度定年退職してから有期雇用などの形で契約を結ぶことになります。

この場合、社会保険の取り扱いはどうなるのでしょうか? 社会保険の加入対象かどうかは、再雇用契約の労働条件によります。まず、社会保険の適用条件について確認してみましょう。健康保険・厚生年金保険の被保険者となる条件は、週の労働時間がフルタイムで働く人の4分の3以上であることです。

社会保険の加入義務

51人以上の従業員がいる会社の場合は、週の所定労働時間が20時間以上、所定内賃金が8万8000円以上であると加入義務が生じます。雇用保険では、会社の規模にかかわらず、週の労働時間が20時間以上であれば適用対象にもなります。再雇用で大幅に勤務日数が減った人以外は、これらの条件を満たしていると思いますので、ほとんどの場合、社会保険が適用されることになります。

定年退職後に、新たな雇用契約を結ぶと今までの労働条件はリセットされますが、社会保険の加入がリセットされるわけではありません。定年後再雇用は、雇用が継続されているとみなされますので、社会保険はそのまま継続されます。社会保険における、被保険者年数も定年前から通算された年数となります。

再雇用の社会保険の手続き

再雇用の際の、社会保険の手続きや保険料はどうなっているのでしょうか。雇用保険と健康保険・厚生年金保険に分けて見ていくことにしましょう。

雇用保険はどうなる?

再雇用の場合、雇用保険に関しては特別な手続きは必要ありません。被保険者の資格はそのまま継続され、退職がなかったものと同様の扱いになります。たとえ再雇用期間中に退職したとしても、失業等給付の受給日数は定年前から通算した勤続年数で計算されます。雇用形態が変わったことで不利益を受けることはありません。

保険料はどうでしょうか? 再雇用後は職責や仕事内容の変化などにより、給与が3割から4割減額になるケースが大半です。雇用保険の保険料は、その月の賃金に一定の料率をかけたものです。給与が減ってもそれに応じた額となりますので、負担増の心配はありません。

健康保険・厚生年金保険はどうなる?

健康保険・厚生年金保険についても、加入が維持されることに変わりはありません。しかしながら、保険料の仕組みは雇用保険とは異なっています。健康保険・厚生年金保険の保険料は、届出によって決定された標準報酬月額というもので決まっています。標準報酬月額は、賃金(給与+通勤費)の額によって細かく等級が定められており、賃金が高いほど等級に応じた保険料も高くなっています。

定時改定と随時改定

この標準報酬月額は、毎年4月・5月・6月の賃金を平均した額で、年に1回改定されます。これを「定時改定」と呼んでいます。なかには、昇進や時短勤務などで固定賃金が大きく変わる人もいると思います。この場合は、定時改定の時期でなくとも保険料の改定を行ないますが、これは「随時改定」と呼ばれています。

標準報酬月額が2等級以上変わる場合は、固定賃金が変動した月から3か月間の賃金を平均して新たな標準報酬月額が算出され、4か月目から保険料の額が変わります。社会保険に継続して加入している人の給与が、大幅に減額になったら、通常はこの随時改定の対象となります。ただし、定年後再雇用になった人には、標準報酬月額の特例が設けられています。

60歳以上の人が、定年後1日も間を置かず再雇用された場合は、退職日にいったん資格を喪失して、新たな標準報酬月額で資格取得する手続きをとることができます。なぜそのような方法をとるのか、次に「同日得喪(とくそう)」について詳しく見ていくことにしましょう。

同日得喪手続きとは

定年後再雇用は継続雇用とみなされ、労働時間などの条件を満たす限り、定年前の社会保険がそのまま適用されます。退職後の契約で給与が大幅に減額になり、従来の標準報酬月額と2等級以上の差が生じた場合は、随時改定を行なうことになります。ただし、随時改定で保険料が変更になるのは、固定賃金が変わってから4か月目です。

そうなると、再雇用で給与が減っても3か月間は以前の標準報酬月額で、算定された保険料を支払わなければなりません。減額後の給与から高い保険料が、控除されるのは負担が大きいですね。そこで、「同日得喪」という特例が設けられているのです。これは、退職日の翌日付けで資格喪失届と資格取得届を、同時に提出することで、再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に決定することができるという仕組みです。

同日得喪手続きのメリット

この手続きをとると、再雇用後すぐに新たな保険料が適用されるので、負担は小さくなります。ただし、この特例は任意であり強制ではありません。標準報酬が高いということは保険料も高くなりますが、将来の年金額や傷病手当金などの給付額の算定には、プラスになるというメリットもあります。

一般的には、保険料の軽減を考えて同日得喪を行なう会社が多いですが、メリット・デメリットについてはよく確認しておきましょう。

まとめ

定年後再雇用では、雇用形態が変わりますから、社会保険の加入の有無は気になるところだと思います。再雇用は継続勤務とみなされますので、労働時間などの要件を満たす限り、社会保険の加入は維持されます。保険料負担に関しては、同日得喪の特例もあります。会社側にもよく確認して、社会保険の仕組みについて理解しておきましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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