日本人、特に料理好きから熱狂的に愛される料理のひとつである「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。イタリア料理の原点とも呼ばれ、食材や調理工程はシンプルながら作り手によってその解釈は異なります。乳化はどうする? 茹で汁の塩分濃度は? にんにくはどう処理する? 他の調味料はNG? パスタの太さや種類は? ……とペペロンチーノは知れば知るほどその深みにはまり、迷走してしまい、簡単なはずなのになかなかうまくいかない摩訶不思議な料理なのです。
『俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ』(玄光社)では、落合務シェフをはじめ、名だたるイタリアンの名シェフや、フレンチの鉄人坂井宏行シェフなどイタリアン以外のシェフたちも含めた18人によるペペロンチーノレシピが披露されています。そこで今回は、5回にわたって名シェフたちの「基本のペペロンチーノのレシピ」をご紹介します。本書では、基本のレシピ以外に、シェフたちの独創的なアレンジレシピも紹介されているので、気になった方はぜひ手にとってみてください。
第1回は、日本におけるイタリア料理の先駆者とされるレジェンド料理人の落合務シェフの登場です。
●落合務(おちあい・つとむ)
日本イタリア料理協会名誉会長。最初はフレンチの料理人を志すが、毎日食べても飽きないイタリア料理のよさに気づき転向。1978年にイタリアで約3年間修業。帰国後に赤坂のイタリア料理「グラナータ」の料理長に就任。1997年に独立し、「日本一予約が取れない」といわれる「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」をオープン。テレビ出演も多く、近著に『落合式イタリアン』(ダイヤモンド社)がある。
ラ・ベットラ
落合シェフの基本のペペロンチーノ
【材料(1人前)】
・ニンニク……2片
・イタリアンパセリ……1.5本
・水……2L
・塩……24~25g
・パスタ……80g
・EXVオリーブオイル……30ml
・仕上げ用オイル……15ml
・唐辛子……1本
<こだわり食材>
●伯方の塩
天日塩田塩を使用した塩で、かどがなく、ほんのりとした甘みが特徴
●REGALO スパゲッティ 1.5mm
小麦の風味を楽しめるパスタ。1.5mmはオイル系ソースとの相性がいい
●DANTE エキストラバージンオリーブオイルヨーロピアンブレンド
100年以上の歴史があるブランドで、華やかでフルーティな香りが特徴
1.ニンニクをスライスする
ニンニクの1片はスライス、もう1片は包丁でつぶしておく。
Chef’s Comment:ニンニクの産地は特にこだわりはないけど、スペイン産のものをよく使ってるよ。包丁で皮ごとつぶしてから皮をむきます。1片は薄切りのスライス、もう1片は包丁でつぶすだけ。
2.オリーブオイルとニンニクを入れ、強火にかける
フライパンにオリーブオイルを入れ、つぶしたニンニクを入れて強火にかける。フライパンのニンニクからチリチリと泡が出てきたら火を弱くし、オリーブオイルにニンニクの味と香りをしっかりつける。
3.火を止めて、スライスしたニンニクを入れる
一度、火を止めてスライスしたニンニクをフライパンに入れる。再び弱火をつけて、ニンニクに火を入れていく。ニンニクの芯の部分は焦げやすいので除いておく。ニンニクがキツネ色になったら、火を止めてスライスしたほうのニンニクを取り出す。
4.イタリアンパセリと唐辛子を入れる
火を止めた状態のまま、フライパンに粗みじん切りにしたイタリアンパセリ半量、2つに割って種を取り出しておいた唐辛子を入れ、フライパンを振って混ぜる。強火でやると焦げるので注意する。
5.パスタをゆでる
沸騰して塩を入れたお湯にパスタを入れてゆでる。ゆで汁の味見をして塩分の濃さを確認する。
Chef’s Comment:鍋のお湯が沸騰したら塩を入れる。塩は最初にペペロンチーノを出した店「グラナータ」の時代から伯方の塩を使っている。手ごろだし使いやすいからね。
6.ゆで汁を加えて乳化させ、ソースを作る
ゆで汁を入れたら、火はつけずに余熱のまま、フライパンを振って混ぜていく。さらに、塩分の入っていない水を少し入れ、塩分の調整をする。ソースの味見をして、塩味が薄かったら塩を足す。
Chef’s Comment:レードル半量(約25ml)くらいのゆで汁をフライパンに入れて、よく混ぜる。これがアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノのソースになるんだよ。味見をして濃かったら、水を足して薄めよう。
7.パスタを入れ、弱火にかけて混ぜ合わせる
パスタがゆで上がったらザルに上げ、フライパンに入れる。弱火にかけながらトングで混ぜ合わせる。パスタとソースは炒めるのではなく和えるようにする。「ジャー」と鳴って炒めてしまわないように、随時火から離しながら調整する。
8.火からおろして、仕上げにオリーブオイルを入れる
フライパンを火からおろして、仕上げにEXVオリーブオイルを少し回しかける。EXVオリーブオイルを入れたら、さらにフライパンを振ってよく和える。
Chef’s Comment:火が入っていないEXVオリーブオイルを仕上げに入れることで、オリーブオイルの味と香りが生きてくるよ。
9.盛り付ける
パスタを皿に盛り付けたら、取り出しておいたスライスしたニンニクを上にのせる。さらに残しておいた半量のイタリアンパセリをかけたら完成。
※本書では、落合シェフのアレンジレシピとして「赤青唐辛子とチーズのペペロンチーノ」「菜の花とすりごまのペペロンチーノ」を紹介しています。
乳化は必ずしないといけないわけじゃない
ただ、口当たりの大事さはあるよね
僕がイタリアで勉強したとき、アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノという言葉は聞いたけど、それでパスタを出すというお店は一軒もなかった。ペペロンチーノはパスタ料理の基本的なもので、そこからボンゴレやペスカトーレなどいろいろな料理が始まるんだなとわかった。だから、日本に帰ってきて初めての店「グラナータ」を出させてもらったとき、メニューにペペロンチーノは入れなかった。
おそらくグラナータでは1回もメニューに載らなかったんじゃないかな。日本にイタメシが定着してきて、お客様から「ペペロンチーノ作ってよ」と注文されたときには作ったけど。ペペロンチーノについては、自分はずっとその考え方です。
アーリオ・オーリオとはつまり「ニンニクオイル」。イタリアではよく「ニンニクにはちゃんと色をつけろよ。そんなニンニクが白いうちは他の食材入れちゃだめだ」ってよく言われてました。あとは、これ(アーリオ・オーリオ)にはチーズを入れちゃだめだとローマで教わった。「確かにオリーブオイルとニンニクと唐辛子にチーズは入れちゃだめだよなあ」と思ってたら、なんとシチリアではチーズを入れていた。そのときは「シチリア人だめだなあ」と生意気に思っていたけど、それを食べたらすごくうまかったんだよ。きっとローマのシェフは師匠の考えもあって、それを守っていたんだろうなって。だから、いろんな考え方があるし、どれも不正解とは言えない。それは自分が決めるわけではなく、食べる人が決めることだから。
世間で「乳化」という言葉が広まったのは1999年に僕が出した『イタリア食堂「ラ・ベットラ」のシークレットレシピ』という本で、「乳化」という言葉を使ったことから。でも僕はそれ以前、グラナータの頃からずっと口にはしてたんですよ。「油と水分が分離しているより、混ざったほうが口当たりがいいよね」ということを、「乳化」という言葉でみんなに教えていたの。実際に修業していたときのイタリアでは、乳化がまったくされていない料理ばかり食べていて、それがまずいとは特に思わなかった。でも「これもうちょっとこうしたほうが絶対にうまいのになあ」っていつも思ってたんですよ。だから日本でお店をやるときに、そこに気をつけたのね。そしたら、来店されたイタリア人から「イタリアよりうまい」って言ってもらった。口当たりがまろやかで、何か入れているだろうって。でも何も入れてない、火加減を気をつけていただけで。
ただ、ペペロンチーノで完全に乳化するっていうことはまず無理だろうね。何かしらデンプンやタンパク質が入らないと。本格的に乳化させたければ、たとえばバターやチーズなんかを入れないといけない。でも必ずしも乳化しないといけないというわけではないんですよ。いいんですよ、しなくても。ただ、乳化したほうがより口当たりがよくなるというだけ。口当たりだけで料理のうまいまずいが決まるなんてたまんねえなとは思うけど、誰でも一口目で感じることだから、やっぱり大事じゃない? だから当時からお店でみんなに教えてたんだ。当時はそんな言葉、誰も知らないから、「ちちか」って何ですかって(笑)。40年も前のことで、そのときから「口当たりよくしたら勝ちだぜ」っていつも言ってたんですよ。
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俺のペペロンチーノ 鉄人シェフ18人が作る基本&アレンジレシピ
監修/Chef Ropia
登場シェフ/落合 務、小川洋行、奥田政行、小倉知巳、片岡 護、Chef Ropia、神保佳永、鈴木弥平、濱崎龍一、
日髙良実、ファビオ、山田宏巳、山根大助、弓削啓太、大西哲也、関 斉寛、山野辺 仁、坂井宏行
玄光社 2,420円