高年齢者雇用安定法では、希望者全員の65歳までの雇用確保を企業に義務付けています。雇用確保措置として、企業は「定年の廃止」「定年年齢の引き上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかを実施しなければなりません。現段階では、定年の廃止や定年年齢の65歳以上への引き上げを実施している企業は3割程度にとどまっています。

そこで、多くの人は再雇用制度などを利用して定年後も仕事を続けているのが現状です。定年後再雇用は、定年退職後も同じ会社で働き続ける制度ですが、ほとんどの場合、仕事内容や待遇が維持されるわけではありません。特に定年前に管理職だった人は、再雇用後の変化に戸惑う人が少なくないようです。今回は管理職の再雇用について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
再雇用後、管理職の仕事内容は変わる?
再雇用後、管理職の待遇面は変わる?
管理職が再雇用に備えてやっておくべきこととは
まとめ

再雇用後、管理職の仕事内容は変わる?

管理職であった社員が定年後再雇用になると、仕事内容はどのように変わるのでしょうか? 再雇用の現状と職務の変化について見ていきましょう。

定年後再雇用の現状は?

厚生労働省が公開している令和5年の『高年齢者雇用状況等報告書』によると、60歳を定年としている企業は約7割を占めています。年金の受給開始年齢が65歳となったこともあり、60歳ではまだ仕事を辞められないと考える人は多いでしょう。実際に、60歳で定年を迎えた人の8割以上が、再雇用制度などを利用して仕事を続ける道を選択しています。

定年後再雇用は、今までと同じ会社で働き続けることができるため、環境の変化が少なく、職場や仕事に慣れているというメリットがあります。しかしながら、仕事の内容は定年前と同じというわけではありません。定年退職後の再雇用は、非正規雇用として契約を結んで働くケースがほとんどです。

それにともない、職責が軽くなる、業務範囲が小さくなるなどの変更があるのが一般的です。管理職として重要なポジションにいた人も、多くの場合役職を外されることになります。

管理職でなくなることをどう受け止める?

役職を外され、権限がなくなることを、マイナスと考える人は少なからずいます。若手を育成し、組織の新陳代謝を図るという会社の意向は、管理職経験者なら十分に承知しているはずです。それでも、なまじ同じ会社であるたけに、部下との関係性や取引先との立場の変化に居心地の悪さを感じる人はいるでしょう。会社によっては、定年前の50歳代のうちに役職定年を設けているところもあります。

この制度の導入は規模の大きい会社ほど多く、500人以上の大企業では役職定年制度を設けているところは4割にのぼります。65歳までの雇用確保によって、会社員人生は長くなりました。会社側からすれば、役職定年制度によって中高年の賃金を抑えるとともに、世代交代を促すというねらいがあります。管理職の社員にとっては不評な制度ですが、早いうちに定年再雇用をイメージしやすくなりますし、定年前後の仕事の変化も小さくなります。

再雇用後、管理職の待遇面は変わる?

定年後再雇用は、仕事の内容だけでなく待遇も変わります。多くの人が気になるのはやはり給与の金額です。雇用形態や職責の変化などにより、給与も定年前の50%から70%程度に減額されることが多く、中には半分以下になったという例もあります。減額の程度が妥当なのかということはトラブルに発展しがちな問題です。

法律では、有期雇用者であっても、一般社員と比べて不合理かつ社会的通念的に相当とは言えない待遇差は、設けてはならないとされています。けれども、雇用形態が変わるうえ、役職を外れて役職手当がなくなる、業務の範囲が狭くなるなどの事情があれば、ある程度の給与の減額はいたしかたないといえるでしょう。

ただし、あまりに不当な給与を提示された場合は、法的な解決を考えざるを得ない場合もあります。給与以外でトラブルになりがちなのは、配置転換です。管理職だった人が、定年再雇用後に誰にでもできる単純作業の仕事に配置されたら、反発するのは無理からぬことです。能力にまったく見合わない「過少な要求」は、パワハラに相当することもありえます。

管理職の再雇用は、給与の減額以上に、自尊心が傷つけられることへの不満が大きいケースが多いのです。会社は、再雇用の対象者の今までのキャリアや会社への貢献に、一定の敬意を持つことが求められます。急激な待遇低下は避けるほか、ある程度スキルを活かせる仕事内容にすることがトラブルを未然に防ぐことにつながります。

管理職が再雇用に備えてやっておくべきこととは

管理職の社員が、定年前に準備すべきことはいくつかあります。一つは自社の再雇用制度について、あらかじめ理解しておくことです。就業規則を確認する、再雇用で働いている人の話を聞くなどして、定年後の働き方について確認しておきましょう。老後の生活設計など経済面の計画を立てることも必要です。

二つ目は会社だけに固執せず、社外での自分の居場所も作ることです。定年前の自分の立場にいつまでも未練を持っていては、充実した老後は迎えられません。趣味の世界で楽しみを持つ、家族や地域社会でのつながりを大切にするなど、会社以外の居場所を日頃から確保しておくことが、前向きに定年を受け入れる秘訣です。

三つめは学びの意欲がある人はスキルアップに目を向けることです。今はリスキリングが奨励されている世の中です。人生100年時代、定年は仕事人生の終わりではありません。管理職を外れて余裕ができた時間を、資格取得の勉強などに振り向けるのも一案です。今までの経験やスキルを活かして、転職や起業することも不可能ではありません。ただし、定年後の起業は資金面をよく考えて、堅実な計画を立てることが重要です。

まとめ

定年後再雇用は多くの人が通る道です。管理職として第一線で働いてきた人は、再雇用後の仕事や待遇に不満を抱きがちです。再雇用後もストレスなく働くためには、定年前の地位に固執しないことです。今までのキャリアに自信を持つことは良いことですが、裏方に回るつもりで後進に道を譲る余裕を持ちましょう。再雇用後の働き方は、事前にプランを立てて充実した定年後にしたいものです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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