令和5年の内閣府の高齢者社会白書によると、60歳以降も仕事を続けている人の割合は7割を超えています。少子高齢化が急速に進展する中で、高齢者が働く環境の整備は進みました。現在は「高年齢者雇用安定法」により、企業は希望者全員の65歳までの雇用確保が義務づけられています。

そのため、65歳未満で定年を迎えた人の多くは、再雇用などで継続して働く道を選択しています。社員が再雇用を希望したとき、会社が拒否することはあるのでしょうか? 今回は、定年後再雇用拒否の問題を中心に、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説します。

目次
会社が再雇用を拒否するのは妥当?
再雇用されないケース
トラブルにならないために気をつけたいこと
まとめ

会社が再雇用を拒否するのは妥当?

定年後再雇用というのは、定年を迎えた社員がいったん退職した後、再び会社と契約を結んで働く制度です。社員が定年後に再雇用を希望したとき、会社が拒否することができるのはどのようなケースでしょうか? 定年後という条件で考えるならば、拒否できるのは定年が65歳以上である会社です。

法律で雇用確保が会社の義務となっているのは65歳までで、65歳を超える雇用は義務ではありません。70歳までの就業確保は推奨されているものの、現段階では努力義務となっています。ですから、65歳以上で定年を迎えた社員が継続を希望しても、会社は承諾しなくてもいいのです。しかしながら、厚生労働省が公開している令和5年の「高年齢者雇用状況等報告書」によると、定年を65歳以上としている企業は3割程度にとどまっています。

大企業に限定すれば、この割合はさらに低くなります。実際には60歳を定年としている企業が最も多いことから、定年後再雇用というと60歳から65歳までの雇用というケースが一般的といえるでしょう。この場合、原則として社員の再雇用の希望を拒否することはできません。ただし、例外はあります。

対象者が解雇に相当する場合や、再雇用の条件で折り合いがつかなかった場合などは、会社は再雇用を拒否することができます。この場合も、再雇用をしないことについては、合理的で客観的な理由があり、社会通念上相当であることが求められます。

再雇用されないケース

社員が希望しても再雇用されないのはどのようなケースなのか、もう少し具体的に見ていくことにしましょう。対象者が65歳未満でも、再雇用されないことがあるのは次のようなケースです。

(1)労使協定で再雇用の対象者を限定している場合

労使協定で継続雇用の対象者となる基準を決めることは、経過措置として認められているものです。この例外は2025年に廃止され、65歳までの雇用確保が完全義務化されますので、このケースはあまり考えなくていいでしょう。

(2)対象者が解雇事由に相当する場合

定年後再雇用の対象者を、一般の社員より優遇しなければならないということはありません。勤務状況が著しく不良であるなど、会社の就業規則の解雇事由に相当する場合は、解雇または再雇用拒否としても違法ではありません。ただし、一般社員と同様の基準で判断することが重要です。

(3)健康上の理由によるもの

高齢になると、体力、認知能力ともに個人差が大きくなります。心身の健康に不安を抱えていて、業務を続けることが難しいと判断される場合は再雇用しないことは可能です。この場合も、業務の内容や職責を軽くすれば働けるなら、安易に再雇用拒否はできません。

(4)再雇用の契約が合意にいたらなかった場合

会社が合理的な契約内容を提示しても従業員が受け入れない、高い条件を求めて譲らない場合などは、契約不成立で再雇用しないことはありえます。これも内容や手続きなどが合理的かつ、社会的に見て相当かどうかが問題になってきます。

以上4つのケースを挙げましたが、いずれにしても、65歳未満の社員の再雇用拒否は会社にとってハードルが高いものです。実際に再雇用の拒否が裁判で争われた例では、会社が敗訴する判決が大半を占めています。

トラブルにならないために気をつけたいこと

定年後再雇用について、トラブルを防止するためにはいくつかの注意点があります。会社側の視点と労働者側の視点の両面から見ていくことにします。

会社が配慮すべきことは?

トラブルに発展しがちなのは、再雇用後の待遇です。法が定めているのは65歳までの安定した雇用であって、定年前と同様の待遇を維持することではありません。したがって、定年後の再雇用では、会社は業務内容や労働時間の変更、職種の配置転換、給与の減額など、様々な条件を提示することが可能です。この中で、特にトラブルが多いのが給与です。

定年後再雇用では、給与を定年前の50%から70%に減額するケースは少なくありません。その金額が妥当なのかということは、問題になることが多いものです。また、今までホワイトカラーだった社員を、単純な作業に配置転換することも反発を招く可能性があります。こうしたトラブルを防止するためには、会社側としては、パートタイム・有期雇用労働法の「均衡待遇」を意識しなければなりません。

法律では非正規雇用であっても、正社員との間において、業務の内容、配置変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理と認められる待遇差を設けてはならないとされています。会社側は再雇用後の待遇については、客観的に見て合理的な条件となるよう配慮することが必要です。

労働者側が注意すべきことは?

再雇用を求める側も、契約の内容には十分注意しなければなりません。何歳まで働けるかということ、労働時間や業務の内容、給与の額と賞与の有無、社会保険の加入の有無などについては、しっかりと確認して合意の上で契約を結ぶ必要があります。

通常は、再雇用制度の内容の説明および意思確認の後に、契約を結ぶことになっていると思います。疑問点などは事前に明らかにしておきましょう。あまりにも不当な待遇を提示された場合は、法的な解決を図ることもやむを得ない場合があります。

まとめ

高齢になって仕事を続ける人が増えた今、定年後再雇用は多くの人が通る道になりました。再雇用制度は、雇用形態は変わっても同じ会社で働き続ける制度です。定年後も前向きな気持ちで生き生きと働くためには、待遇などについて十分に納得した上で契約することが大切です。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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