コロナ禍で控えられていた歓送迎会が復活し、この春は飲酒をする機会が増える人も多いのではないでしょうか。お酒は健康を害するものと思われがちですが、近年は国内外の疫学研究により、「酒をまったく飲まない人より、適量飲酒を習慣にしている人の死亡率のほうが低い」ということが報告されました。これは、まさに「酒は百薬の長」という酒飲みにとって心強い格言が医学的に証明されたというエポックメイキングな出来事かもしれません。
とはいえ、やみくもに飲酒をしてしまったら病気へとつながることも事実です。『医者が教える もっと! 体にいい酒の飲み方』(宝島社)では、酒をこよなく愛する医師たちが、一生健康のまま楽しめる「酒の飲み方」、体に良い「つまみの選び方・食べ方」など、酒好き必読の新常識を指南しています。今回は、「太らない、つまみの食べ方・選び方」を紹介します。
太る原因の9割はつまみ。ただし、つまみなしは逆効果に
<監修>
栗原毅(くりはら・たけし)
栗原クリニック東京・日本橋院長。医学博士、日本肝臓学会専門医。
東京女子医科大学教授、慶應義塾大学大学院教授を歴任。「血液サラサラ」の名付け親の一人。生活習慣病や寝たきりなどの予防・改善の情報を広く発信している。著書・監修書に『肝臓の名医が明かす!1週間で内臓脂肪が自然に落ちる本』(宝島社)など多数。
* * *
「酒を飲むと太る」と考える人がいますが、「酒=太る」要因ではありません。砂糖や果汁をたっぷり含んだお酒には気をつけるべきですが、お酒には食欲を増進させる作用もあるので、つまみをたくさん食べてしまいがちに。この「食べてしまいがち」が、大きな落とし穴となってしまうのです。飲みの席では気分が高揚し、フライドポテトや〆のラーメン、食後のスイーツといった高カロリーな食べ物にも手を出す方が多く、これが太る原因になります。特に気をつけなければならないのが、腸間膜(小腸を包み支える薄い膜)や内臓のまわりなどにつく内臓脂肪です。
食事などから摂取した栄養(糖質や脂質)は、肝臓で中性脂肪として合成されます。そして、エネルギーとして体の各所で消費されますが、中性脂肪が増えすぎると体内で消費しきれず、余ってしまいます。これが内臓脂肪や皮下脂肪として体内に蓄積されて肥満の原因になります。さらに、ほうっておくと脂質異常症や高血圧、糖尿病などを引き起こすおそれがあります。こうした状態になるのを防ぐには、脂肪になりやすい糖質を摂りすぎないことが、とにかく大事です。実際、アルコール摂取量と肥満度を調査した研究結果でも、アルコールは摂取しすぎなければ、「酒太り」にはつながらないことが実証されています。太る原因の9割は、つまみにあるといっても過言ではありません。
そして本来、中性脂肪は身体活動を活発にするのに役立つもの。増やしすぎないように気をつければ、健康体を保つことができます。枝豆や刺身、漬物、豆腐、わかめの酢のものといった低糖質のつまみを積極的にチョイスし、糖質が高いものは最小限にとどめましょう。なかには、「太る要因だから」と、つまみを控えて酒一辺倒という人もいますが、それでは肝臓の負担が大きくなってしまいます。何かを食べながら飲むとアルコールの吸収率が遅くなり、肝臓への負担もやわらぎます。低糖質のつまみをちびちびと食べながら飲むようにしましょう。
カロリーより糖質・炭水化物の量で選ぶのが「酒太り」を防ぐカギ
近年の健康志向の高まりにより、メニューにカロリー(エネルギー量)や糖質の量が記されている店も増えています。しかし、太らないために着目すべきは、「糖質」や「炭水化物(※)」の数値です。
1日の糖質の摂取量の目安は、成人男性で250g、女性で200gですが、脂肪をため込まないためには、約2割減の1日200g(男性)、150g(女性)を目安にします。ただし、糖質の摂取を極端に減らすと、急激な脂肪の減少に危機を感じた体が逆に脂肪をため込もうとするので、過剰に控えるのはマイナス。これまでの10~20%分を減らすと考えるとよいでしょう。数値がメニューにない店もありますが、家飲みで弁当や総菜をつまみにするときは商品ラベルのチェックを。
(※)「炭水化物」は、「糖質+食物繊維」の量を表し、おおよその糖質量がわかります。
つまみとして控えるべきもの(糖質・炭水化物)
ごはん・パン・めん類
主食であるごはん・パン・めん類・小麦を原料とする製品には糖質が多く含まれる。しかし、まったく食べないと栄養不足やリバウンドの原因に。これまでの量からひと口分減らすようにするとよい。
フルーツ
フルーツの果糖は吸収が速く、中性脂肪に合成されやすいため、食べすぎに注意。
根菜
根菜は意外に糖質が多め。特にじゃがいもなどのいも類、レンコンなどには要注意。
つまみとして控えなくてよいもの(動物性タンパク質)
肉・魚
肉や魚は、脂肪のもととなる糖質をほとんど含まず、体を健康に保つために必要な動物性タンパク質が豊富。積極的に摂取することで筋肉の増加を促し、脂肪を燃焼させる力も強くなる。
乳製品
カロリーは高くなるが、糖質は少なく、骨の材料となるカルシウムも豊富。
卵
手頃な値段で、しかも栄養価の高い卵は、積極的に取り入れたい食材の1つ。
Column:酒飲みの寿命を縮めるNGアクション(3)
どんなに酒やつまみにこだわっても、これらの行動をとってしまったら台なしに。心あたりがある人は、命を守るために今日からやらないよう注意を!
<監修>
秋津壽男(あきつ・としお)
東京都品川区戸越銀座・秋津医院院長。日本内科学会認定「総合内科専門医」。
大阪大学工学部発酵工学科で酒造りを学んだあと、和歌山県立医科大学循環器内科勤務などを経て現職。テレビ東京「主治医が見つかる診療所」レギュラー出演のほか、著書も多数。ワインと健康に関する功績により、日本ソムリエ協会から名誉ソムリエの商号を受ける。
* * *
迎え酒と寝酒はメリットなし! 飲んで爆睡はただの気絶?
「迎え酒」は、二日酔いの症状をさらに悪化させるだけ。頭痛などの不快感を酒でまひさせているだけということが、研究で明らかになっています。「寝酒」も体の毒になる習慣です。アルコールを摂取すると1時間程度で脳の感覚がまひして寝つけますが、約3時間後には抜けて、逆に覚醒効果が出て寝つけなくなり、質のよい睡眠が得られません。さらに睡眠時無呼吸症候群も引き起こしやすくなります。そして「迎え酒」「寝酒」は、アルコール依存症に陥る危険性を高めます。
* * *
医者が教える もっと! 体にいい酒の飲み方
監修/栗原毅、滝澤行雄、秋津壽男、栗原丈徳、溝口徹
宝島社 891円