仕事を中心に人生を積み重ねてきた人ほど、引退を機に周囲とのコミュニケーションが激減して孤立してしまう恐れがあります。孤立が招くものは、不健康や経済的破綻、そこまでいかなくても、充実した生活からは程遠いものになるのは必至です。
今回は、米国カリフォルニア州立大学・心理学部教授のケネス・S・シュルツ氏監修の『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』(日経ナショナル ジオグラフィック社)を参考に、引退後に必要になる「4つの支え」について、お伝えしていきます。
■1:精神面での支え
英国の心理学者デレク・ルミンによると、対人支援の内容は大きく4つに大別できるといいます。その4つの支えの中でも、引退して間もない頃には特にありがたいのが「精神面での支え」です。つまりは損得抜きであなたの話に耳を傾け、気を配ってくれる人の存在です。
職場のコミュニティだけで生きてきた人にとっては、引退する時こそ、家族や友人など、近くにいる大切な人とたくさん話をするべき時。話を親身に聞いてくれるような関係性の人が多ければ多いほど、それだけ多くの心理的な支えを得られるでしょう。
■2:生活面での支え
家の修繕など、体力的に難しくなったあなたにとっては、生活上の具体的な課題で手を貸してくれる人が必要になります。地域の支え合いや同居家族など、距離が近いほうが支援を受けられやすくなるでしょう。
家の中のことについては、親子関係が最初のよりどころに挙げられますが、関係が円満なことが条件になります。子供が独立するまでは、親が子供の面倒を一方的に見てきたでしょうが、老後はそれまでの支援の関係が対等になったり、逆転したりしてきます。
子供に頼ることに抵抗を感じるかもしれませんが、これはいわば、これまで支援してきた「投資」を払い戻してもらうとも考えられます。むしろ支援し合うことで、親子関係を高めることもできるのです。
■3:情報面での支え
引退後、所属するコミュニティが小さくなればなるほど、情報が少なくなり、必要な情報が手に入りにくくなることもあります。そのような時に情報を見つける手助けをしてくれたり、人の仲介をしてくれる支援が必要になります。
これにはインターネットの力を借りることも有効です。情報がほぼ無限にあるインターネットは、賢く使えば最強の武器になります。またインターネットはもとより、人と人のつながりなどコミュニケーションが多ければ多いほど、情報の交流が盛んになります。思い切ってSNSを始めてみるのもよいでしょう。
ただしインターネットの大海を泳ぐのは、語学の習得と同様に練習が必要になります。そのために案内役を務めてくれる人を見つけるのも大切です。同じようにインターネットに乗り出した同世代の仲間との付き合いも積極的に行いましょう。
■4:仲間との付き合い
家族の枠を超えて支え合うのが仲間の存在。子供や配偶者がいなくても、仲間はそばにいてくれるだけで、有意義な時間を過ごすことができます。
これまでの交友関係の中で、今後も長く付き合いを続けたい人は誰なのかを一度考えてみましょう。また、今まではなかなか時間が取れずにご無沙汰になっている人たちとも、交友関係を暖めなおすときです。
引退後の良き人生に、良き友人の存在は不可欠です。不安を感じたなら、今から友達づくりをすることも遅くはないのです。
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以上、今回は引退後に必要となる4つの支えについて見てきました。
周囲との関係は、多くの場合に、人生のセイフティーネットになってくれますが、周囲から助けを得るには、信頼できる人同士の支え合いが大切になってきます。
人間関係は、何と言っても量より質。引退後のネットワークは規模よりも信頼関係のほうが大事です。困った時に話せる人、頼れる人の存在は、まさに引退後の人生を支える土台となるでしょう。
【参考文献】
『リタイアの心理学 定年の後をしあわせに生きる』
(S・シュルツ監修、藤井留美 訳、定価 2,800円+税、日経ナショナル ジオグラフィック社)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/16/010500050/
文/庄司真紀