文/印南敦史
健康によいという理由でランニングをしている方は少なくないだろうし、健康のためにサウナに通っているという方や、汗をかいて体重を落とそうと考えている方だっていらっしゃるかもしれない。
ところが医師である『100歳でも元気なのはどっち? 長生きする人・しない人の習慣』(秋津壽男 著、あさ出版)の著者によれば、そういった健康法のたぐいには科学的根拠がないのだそうだ。
では、なぜ多くの人がそういった情報を鵜呑みにしてしまうのだろうか? その原因のひとつは、近年の急激な情報量の増加である。
医療や健康に関する情報は連日にわたって更新され、洪水のようにあふれている。しかしその多くは、「誤ってはいないが、偏っている」、あるいは「誤った情報を検証せず、まことしやかに伝えている」ものばかりだというのだ。
もちろん、科学的な検証に基づいた正しい情報も発信されてはいますが、その大部分は地味な内容で、人々の耳目を集めるまでには至りません。
耳に大量に入ってくる、聞き心地の良い情報をそのまま信じて、多くの人が「健康のために」と寿命を縮めているのです。(本書「Prologue」より)
だからこそ本書では、「信じるに値する情報」を集めているのである。
特徴的なのは、「長生きする人・しない人」に関する40種の習慣が、「病気と医療」「薬の習慣」「日常生活」などの項目ごとに質問形式で明らかにされている点。そのため読者は、「健康にいいとされているけれど、じつは誤った情報」がいかに多いかを実感できるわけである。
そこで質問。
冒頭でランニングについて触れたが、「早朝のランニングを日課にする」ことと「食前のウォーキングを日課にする」こととでは、どちらが“長生きする習慣”だと思われるだろうか?
正解は後者。著者によれば、前者の「早朝ランニング」はデメリットばかりなのだそうだ。そのことを立証するために、ここではアメリカの医療専門誌で発表された、ランニングに関する研究結果が引き合いに出されている。
ランニングの習慣が死亡リスクの低下につながるには、次の3つの条件を満たす必要があるというのである。
1.走行距離が、一週間に32kmを超えない
2.走る速度が、時速8〜11.2km
3.走る回数が、一週間に二〜五回以内
(本書115ページより)
適切なランニングが健康によいことは医学的にも証明されつつあるが、この条件を超えて走ると、寿命を延ばす効果はなくなるということだ。そこで、朝早く起きてランニングするという習慣は見なおしたほうがいいと著者はいう。
人間には体内時計にのっとったサーカディアンリズム(概日リズム)があり、夜間は副交感神経が優位となってリラックスした状態で眠りにつきます。
そして朝になれば、活動的な一日を過ごすために必要な交感神経が優位になっていきます。
交感神経が優位な状況は、血圧が上昇し、夜間の脱水も加わって血液が凝固しやすい状態です。
このときにランニングをすると、脈拍が増えることで血圧がさらに上昇し、心筋梗塞のリスクが非常に高くなるのです。(本書116〜117ページより)
心臓病による突然死が午前中、とくに起床後2時間以内に多いといわれているのは、こうした理由から。したがって、心臓に病気を持っている人はもちろんのこと、とくに高齢者は早朝ランニングは絶対に行うべきではないという。
また、睡眠中に下がっていた体温は、起床時にはまだ十分に上がらず、筋肉は固まっている。そんなときにランニングを始めたら、関節や筋肉を痛めることにもなる。そういった理由から、早朝ランニングはデメリットばかりだというのである。
一方、健康のために著者が勧めているのがウォーキングだ。
ウォーキングは、体に大きな負荷をかけずに行うことができる運動です。
ウォーキングで取り入れられた酸素は、体内に蓄積している脂肪やグリコーゲンを燃焼させてくれます。
また、適度に筋肉がつき、基礎代謝量が増えることで脂肪燃焼が促進されます。
心臓や肺の働きが良くなる効果も見逃せません。
新鮮な血液を全身に送り出すことができるので、生活習慣病の予防、ストレス解消、美容効果なども期待できます。(118ページより)
ちなみに、痩せたいのなら食後より食前の運動がいいようだ。なぜなら、痩せやすいのは空腹感のある食前だから。
食事をしてから時間が経つと、血液中の糖分の量(血糖値)が下がり、それを脳が感知することで空腹感が生まれる。つまり空腹時は、エネルギーの源である糖分が少ない状態。そのとき体は、予備のエネルギーとして蓄えている体脂肪を利用して足りない分を補おうとするため、体脂肪が燃焼するわけである。
ただし血糖値が低いときに急に激しい運動をすると、低血糖状態になって貧血や心臓発作を起こすこともあるようだ。そういう意味でも空腹時にはウォーキングのような軽めの運動が適しているということだ。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。