ハラスメント防止については、今や多くの企業が対策を行なっています。一般社員だけでなく管理職社員においても、パワハラについての知識はずいぶんと周知されました。会社も相談窓口などを設置しており、パワハラ行為の被害を訴える社員も増加しています。しかし、被害者がパート・アルバイトである場合はどうでしょうか?
もちろん、正社員であろうとパート・アルバイトであろうと、パワハラの被害を受けるようなことはあってはなりません。けれども、パート・アルバイトの立場だと、「抗議したら、クビになるのでは?」「何か言ったら待遇に影響するかもしれない」などと考えてしまう人もいるのではないかと思います。今回は、パート・アルバイト先でパワハラを受けることについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
パート先でパワハラを受けたら?
パート先でのパワハラの実例
パート先でパワハラを受けたときの対処法
まとめ
パート先でパワハラを受けたら?
パート・アルバイト先で、パワハラを受けたという話をしばしば耳にします。しかしながら、職場でパワハラを訴えて改善されたという声はあまり聞こえてきません。パワハラを受けた被害者に、どのように対応したか聞いてみると、「我慢して受け流す」「パート(アルバイト)先を辞める」など、あきらめに近い答えが数多く返ってきます。
あきらめてしまう大きな原因は、パート・アルバイトの人たちが、自分たちは正社員のように安定した雇用形態ではないと考えていることにあります。そのため、「クビにならないよう黙っていよう」「パートなのだから、別の職場を探せばいい」と考えて、積極的に改善を求めることは避けてしまいがちです。
けれども、悩みを一人で抱え込んでいては、ストレスで体調を崩すことになりかねません。また、パワハラ被害に口をつぐんだままでいると、新たな被害者を生み出してしまうことにもつながります。ここはひとつ、あきらめずに被害の事実を、周囲や会社に訴えていくことを考えましょう。
ハラスメント防止が企業の義務となっている以上、会社側もパワハラを放置することはできません。また、人手不足が深刻化している今、パワハラでパート・アルバイト従業員を失うことは、会社にとっても大きな損失です。
報復などを心配して、声を上げることをためらう人もいるかもしれません。しかし、ハラスメント防止法において、会社はパワハラを訴えた従業員に対して、解雇・その他の不利益な扱いをすることは禁じられています。会社側が、パート・アルバイトの意見を重視して、職場環境が改善される例も増えてきています。今後の被害を防止する意味でも、パワハラ行為には適切に対処することが大切です。
パート先でのパワハラの実例
パート・アルバイト先のパワハラは、どんな実例があるでしょうか? 厚生労働省ではパワハラの代表的な言動として、以下の6つの類型を示しています。
1.身体的な攻撃
2.精神的攻撃
3.人間関係からの切り離し
4.過大な要求
5.過少な要求
6.個の侵害
パート・アルバイト先のパワハラの例を見ていくと、6つの類型すべてで被害が報告されており、複数の類型に当てはまっているものも多数見られます。実際の事例として、次のようなものが挙げられます。
・書類を投げつけられたり、邪魔だとつきとばされた。
・ミスをしたら殴るなどの暴力をふるわれた。
・休んだらクビにすると脅された。
・仕事を始めたばかりなのに、みんなの前で仕事が遅いと罵倒された。
・挨拶しても無視された。質問しても答えてくれない。
・仕事についてまだ何も教わっていないのに、社員と同じ業務を押し付けられた。
・勝手にシフトを組まれ、休ませてもらえない。
・とうてい勤務時間内に終わらない量の仕事を命じられた。
・一人だけ倉庫の整理を命じられ、具体的な指示を何もしてもらえない。
・事務職なのに、草むしりやごみ捨てだけを長期間やらされた。
・家族の話や、休日の行動などをしつこく聞いてくる。
・携帯電話を覗かれたり、私物を勝手に見られる。
これらはほんの一部ですが、これに類似した事例は、多くの職場で見られると思います。パワハラ行為はパート・アルバイト従業員に限らず、社員に対してももちろんあります。しかしながら、雇用の安定という点では、パート・アルバイト従業員が社員より弱い立場なのは否めません。
特に店舗などの閉鎖的な空間では、店長や社員スタッフは、パート・アルバイト従業員に対して、優越的な立場を振りかざしがちです。そのような職場では、パート・アルバイト従業員は本社に訴える機会がなく、パワハラの温床になってしまうことがあるのです。
パート先でパワハラを受けたときの対処法
パート・アルバイト先で実際にパワハラにあった場合は、どのように対処したらいいでしょうか? 具体的な対処方法について以下に示します。
1.被害にあった事実を記録しておく
被害にあった日時・場所・相手の言動、目撃者はいるかなど、事実はできるだけ詳しく記録しておきましょう。録音などのほか、メモなども証拠として役に立ちます。
2.家族や友人に相談する
パワハラにあったことで動揺してしまうと、正しい判断ができません。家族や信頼できる友人などに相談しましょう。
3.社内の窓口などに相談する
会社は、相談窓口を整備することが義務付けられています。相談者のプライバシーを守ることも定められているので、勇気を出して相談してみましょう。
4. 社外の公的機関などに相談する
勤務先に相談しづらい場合、会社そのものに問題がある場合は、外部の窓口に相談することも考えましょう。都道府県の労働局の総合労働相談コーナーや、自治体の相談窓口、法テラスなどがあります。
相談をしてみても、なかなか問題が解決しない場合は、パート・アルバイト先を退職するということも選択肢の一つです。その場合でも、無責任な辞め方はしないことです。きちんとけじめをつけたほうが、前向きな気持ちで新たな一歩を踏み出せます。
まとめ
パート・アルバイト先でパワハラにあった場合、職場で被害を訴えるのはハードルが高いと考える人もいるかと思います。けれども、多くの人が黙って泣き寝入りしてしまうと、パワハラ行為はなくなりません。退職して新しい出会いを探すのは悪いことではありませんが、辞めることを考える前にできることもあります。まずは、信頼できる第三者に相談しましょう。誰もが人として尊重される社会の為には、勇気を出して声を上げていくことも大切です。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com