九州と同じほどの面積で、東シナ海の南に位置する台湾は、大きな魅力を秘めた旅先だ。特に開府400年に沸く台南に注目。多様な文化を探訪する旅に出かけたい。
解説/平野久美子(ノンフィクション作家)
「食や工芸、歴史が育んだ多様な文化とどこか懐かしい風景。台湾は何度訪れても発見があります」
日本の最西端にあたる沖縄県の与那国島から100kmほどの距離にあり、1895年(明治28)から50年間、日本に統治されていた台湾。地形や近代史、さらには文化や人的交流の観点から眺めても、台湾は日本と密接な関係を持っている。
2011年3月11日に起きた東日本大震災への台湾からの義援金の総額は、世界第1位だった。この事実ひとつとっても、日台の絆が連綿と続いていることを私たちに知らしめる。
今、台湾は“隣国の親友”として広く親しまれ、海外旅行先として人気が高い。日本人の口に合う美味しい日常食、南国らしい豊かな自然、島嶼(とうしょ)部から富士山より高い山が聳える雄大さ、各地に残るどこか懐かしい景色や史跡の数々と“日本精神”を受け継ぐシニア世代、親しみやすい若者たち……。何度訪れても新たな発見のある台湾へ、日本に帰った途端に「また行きたい」と思うのは私だけではないはずだ。
楽しみ方はさまざまだ。鉄道の旅に興味があり、食も歴史も満喫したいのなら、“台鐵”(在来線)で、台北(タイペイ)から古都・台南(たいなん)を目指すぶらり旅はいかがだろう。
温泉でリフレッシュしたいなら、温泉や先住民の文化を体験できる山里のリゾート宿がある。さらに近年、台湾のウイスキーが世界で注目を集めている。その誕生秘話を知れば、ぜひとも現地で飲んでみたくなる。
そう、台湾には知られざる楽しみが、まだまだ山ほど埋もれている。そして思いがけない出会いがあり、訪ねれば台湾の奥深い魅力に触れることができるに違いない。
節目の年の大イベント
2024年は台湾にとって節目の年だ。オランダ人によって台南郊外の安平(あんぴん)にゼーランディア城が建てられたのは1624年、すなわち開府400年となる。このとき以降、台湾にはオランダ、明朝の遺臣である鄭氏、清朝、日本、中華民国と、寄せては返す波のように外来の政権がやってきた。そこで営々と暮らしてきた人々が、現在の多様性と柔軟性に富む台湾の原動力となった。
台湾で毎冬、各都市の持ち回りで開かれる「ランタンフェスティバル」が、2024年は台南市が舞台となる。趣向を凝らした光のオブジェやランタンが数千の単位で明々と点る一大イベントで、台湾内はむろん海外から観光客も多く訪れる。
ご存じの通り、台湾はITの先進国であり、2024年の台南の「ランタンフェスティバル」では、デジタル技術と芸術を融合した、世界に冠たる水準の作品が会場を彩るとすでに予告されている。日本の新幹線にあたる高鐵台南駅近くと、台南発祥の地ともいえる安平のふたつの会場を軸に、市内各地のランタン行事とも連携し、400年の歴史と次代の台南を示すのだと、現地の人々は意気込む。
ITやデジタルの最新技術を誇りながら、夜空に瞬くランタンに、安寧と平和の祈りを寄せる信仰の深い人々が暮らすのが台湾だ。食や歴史、懐かしい雰囲気を楽しみながら、今まで知られていなかった魅力や素顔に出会う旅が待っている。
解説 平野久美子さん(ノンフィクション作家)
撮影/宮地 工、竹崎恵子、藤田修平 写真提供/台湾観光庁
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。
【完全保存版 別冊付録】台湾の古都「台南」を旅する