ご自身の大切な方に財産を確実にお渡しするために、または相続対策として生前贈与を検討している方も多いのではないでしょうか? 生前贈与を行うことで様々なメリットがあります。しかし、当事者は「贈与」という認識のもとで行なっていた行為が、「贈与の事実を否認」されてしまうことも多く、しばしばトラブルが発生してしまっているのも現状です。これではせっかくの生前対策も意味がなくなってしまいます。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、生前贈与のメリットとデメリットについてご説明いたします。
目次
生前贈与とは?
生前贈与するメリットとは?
生前贈与するデメリットや注意点はある?
生前贈与を上手に活用するポイントとは?
まとめ
生前贈与とは?
生前贈与とは、生きている個人から財産を無償で渡すことを指し、もらった側には「贈与税」が課税されます。例えば、親から子供にお金をあげると、贈与税の対象になるのは多くの方がご存知だと思います。誕生日のお祝いに車などのプレゼントを贈ったり、恋人にアクセサリーをプレゼントすることも、厳密にいえば贈与税の対象となるのです。ただし、扶養義務者間で生活費などの通常必要な範囲内の費用は、贈与税がかかりません。
また、香典、祝物、お見舞いなど、社交で必要と認められるものについても、贈与税の課税対象外になります。贈与の方法には暦年贈与という方法が一般的で、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、贈与税の基礎控除額の110万円をひいた金額に贈与税がかかるというものです。
贈与税は、もらった財産の合計額が基礎控除額の110万円以下であれば課税されず、贈与税の申告をする必要もありません。このことから、相続税対策で生前贈与を年間110万円の範囲内で行うという方法がとられることがあります。
生前贈与するメリットとは?
次に、生前贈与をするメリットですが、以下のものがあげられます。
生前に特定の方に財産を渡すことができる
生前贈与は、配偶者や子供、兄弟などの相続人はもちろん、他人にも実行することが可能です。特定の方に財産を渡すことで、財産の承継先を明確にすることができます。また、日頃お世話になっている人に、財産を譲ることなども可能です。教育資金や自宅の購入、結婚のための資金であれば、税制の優遇措置も設けられているため、一定金額のまとまったお金を贈与することもできます。
相続税の節税になる
将来課税される相続税を、生前贈与をすることによって節税することが可能です。相続税は、相続が発生した時点の相続財産の総額に対して課税がされます。生前に贈与を行なえば、その総額を減らすことができるため、計画的に贈与を行なうことで将来課税される相続税を減少させる効果が生まれます。
生前贈与するデメリットや注意点はある?
一方、生前贈与をするに当たってのデメリットや注意点についてご紹介いたします。
連年贈与の注意点
連年贈与とは、暦年贈与の基礎控除額を利用して、毎年贈与することをいいます。連年贈与の何が問題になるかというと、「最初から、毎年決まった額をあげるという契約だったのではないか」ということです。
国税庁のタックスアンサーには、親から毎年100万円ずつ10年間にわたって連年贈与を受けた場合の贈与税の課税方法について、次のような回答があります。
毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。
ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。
つまり、最初から固定の金額を渡すつもりで、それを分割して贈与しただけでは、初年度に渡した総額に課税がされてしまうということです。
名義預金
続いて暦年贈与で問題となるのが、「名義預金」です。こちらは、贈与のつもりが相続財産とみなされてしまうケースになります。例えば、年少の子どもや孫など、まだ金銭管理を任せられない相手に贈与を行なうにあたって、子どもや孫名義の口座を開設し、そこにお金を振り込むことで贈与したものとするケースです。
この方法は、相手がそのような口座の存在を知らないという時点で、贈与は成立せず、口座内の預金は相続が発生すれば、相続税の課税対象となります。また、口座の存在を知らせていたとしても、その預金の管理を親や祖父母が行ない、名義人である子どもや孫が全く管理できていない状態であれば、これも贈与とは認められません。よって同様に相続税の課税対象となります。
生前贈与加算
生前贈与加算とは、被相続人の死亡前3年間に相続人が贈与された資産について、相続税の計算に含める制度です。贈与税には年間110万円の基礎控除があることから、生前贈与が相続税対策として活用されています。しかし、「生前贈与加算」により死亡前3年分(※)は、基礎控除枠内の贈与であっても非課税とならず、相続税が課されることになるのです。
(※)令和6年1月1日以降の贈与に関して、生前贈与加算が7年に延長されます。
生前贈与を上手に活用するポイントとは?
計画を立て行なってきたつもりの生前贈与が、定期金の贈与であるとか、名義預金であると判断されてしまうのは不本意なことです。生前贈与が、正しく認められるために贈与者・受贈者の間で対策を行なうことがポイントになります。
贈与契約書を作成する
贈与契約書とは、贈与者と受贈者が、「いつ・いくらの贈与を受けるか」を合意したことの証明として作成するものです。贈与が原則として双方の承諾で成立するものであることから、すべての贈与で作成しておくことが望ましいといえます。契約は口約束でも有効ですが、贈与の場合、その契約があったことを示すために必要となるため、必ず書面で作成しておきましょう。
名義預金口座の管理を行う
名義預金の対策としても、まずは受贈者にその預金の存在を知らせる意味で、贈与契約書の作成を行います。また、名義預金とみなされないよう、口座の通帳や印鑑の管理は受贈者が行います。
口座内の金銭を管理していることを示すには、例えば、受贈者名義の支払いの引き落とし口座に設定することなどが有効な手段です。受贈者が未成年者の場合は、贈与契約に親権者の同意が必要なため、契約書の作成や、その後の通帳等の管理方法について検討が必要でしょう。
まとめ
相続の対策や、自分がお世話になった方に生前贈与を行なうことで、節税対策をしたり、今までの感謝を伝えるのは、非常に望ましいことでしょう。しかし、正しい贈与の形式がとられていないと、あとから税務署に指摘をされて、贈与が無効になったり、思わぬペナルティを受ける可能性も。
そのような事態にならないように、贈与契約書の作成や預金口座の管理など、第三者にも贈与の事実をしっかり証明できるように、正しい方法で贈与を実行していただきたいと思います。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)