写真はイメージです

取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

2023年、警察庁は初めて、痴漢取締り強化撲滅に向けた対策推進を全国の警察本部に指示した。警察庁の統計を参照にすると、2021年に全国の痴漢摘発件数は約2000件。しかし、被害に遭っていることを叫べず、泣き寝入りするケースもあるだろう。

撲滅のための施策は政府発表の『痴漢撲滅に向けた政策パッケージ』に詳しい。内閣府、警察庁、法務省、文部科学省、国土交通省が連携し、被害者を支え、加害者の再犯を防ぐという2つの方向から撲滅を目指している。

主人は息子に野球をさせたかった

朋美さん(65歳・パート)は、35歳のひとり息子の痴漢について、悩まされている。一回、発覚すると示談金として大金が飛んでいくという。息子は痴漢が原因で離婚をした。転職も繰り返している。息子の後始末のために、虎の子だった老後資金にも手を付けてしまった。

「示談金はもっと支払いたいんです。でもできない。同じ女性として、被害者の人に申し訳なく、その心の傷や痛みを考えると想像もつかない。とはいえ、我が子もかわいい。どうすればいいかわからないんです」

そう語る表情の顔には深くシワが刻まれ、髪の毛も真っ白だ。化繊の服はところどころほつれ、元はライトブルーだったのだろうが、黄ばんでいる。ずっと、誰にも言えずに堪えていたのだという。

「80代の親は、“もう離婚して実家に帰ってこい”と言います。あんなにかわいがっていた自慢の孫だったのに、親子の縁を切れと言うんです。親に強く言われると、そうしたいとも思うんですが、実際に我が子の顔を見ると可愛い。私が夫に怒鳴られたときに助けてくれたこともありますし……ホントは優しい子なんです」

息子は、中高一貫の私立男子校から、中堅私立大学に進学し、大手住宅メーカーに就職したという。最初は営業で、ここでさんざんしごかれたそうだ。

「私はバカだから、あんまり話してくれませんけれど、何もない空間を見て“6畳です”と即座に言えるくらいの訓練をされ、お酒が弱いのに飲まされて、契約を取るまで帰ってくるなと言われてたみたい。主人は“男の仕事はそんなもんだ”と言いますが、私は落ち込んでいる息子を見るとかわいそうでたまらなかった」

息子は新人の中での営業成績はビリだった。息子はそれを朋美さんだけに話した。そして、あるときうっかり、夫にそのことを言ってしまった。すると夫は「女に負けているなんて、男のクズだ」と言ったという。

「主人はずっと野球をやっていて、息子にもさせたかったんですよ。でも、どれだけ野球をさせてもダメ。息子はアニメやゲームが好きで、私に似ちゃったんです。主人には“オマエの育て方が悪いんだ”とよく怒られていましたけれど、息子が中学に入る頃は諦めてくれました」

住宅メーカーで「使えない奴」と言われながらも頑張り続け、息子は契約を取れるようになった。いきいきと会社に行くようになり、ホッとした24歳のときに痴漢で現行犯逮捕された。

「帰ってこないな、おかしいなと思っていたら、逮捕されていたんです。警察から連絡があり、知り合いの弁護士さんに相談したらすぐに行ってくれました。息子は自分の罪を認め、相手の方に対しても申し訳ないという態度を崩さなかった。初犯ということもあり、相手の方も許してくださったので、示談になりました。そのときのお金は50万円。弁護士さんには相場より高いと言われましたが、お相手が望む金額を出しました。主人には絶対に言えないので、私のへそくりでまかなったんです。息子に前科がつくことを思えば、安いものだと思いましたが、それから3回も逮捕されている今となっては、あそこで刑務所に入っておけば違う未来があったんじゃないかと思うんです」

【転職先が突然倒産、家電量販店の販売職を得るが、夫が反対し……次のページに続きます】

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