主人に叱られるのが怖い
会社に露呈することなく、そのまま勤務を続けたが、息子は痴漢逮捕から1か月後に会社を辞めてしまった。
「あのときは私も怒りました。一生安泰の会社に入ったのに、なんで辞めるんだと。そのために私がどれだけ我慢をしたか。お金もそうですし、生活もそうです。それに、私は息子が会社を辞めたことを主人に知られ、私が叱られるのが怖かった」
朋美さんの夫は、典型的な亭主関白。自ら会社を経営し、着実に業績を伸ばしてきた。完璧主義で勝つことにこだわった。朋美さんとは友達の紹介で知り合い、当時は頼りがいがある素敵な人だと思ったという。
「私、ちょっとファザコン気味というか、頼れる人が好きなんです。父も会社を経営しているし、夫と同じA型なんです。私はO型で母もO型。AOの夫婦は相性がいいって言うじゃないですか。几帳面なA型とおおらかO型って、最高の組み合わせなんです」
かつて流行した血液型を元にした診断。A型は真面目、O型は寛容、B型は変わり者、AB型は二面性があるなど、科学的根拠はないとされているが、根強く信じられている。
「息子はA型なんです。真面目過ぎていっぱいいっぱいになっちゃうんでしょうね。会社を辞めてからは、いわゆる“引きこもり”になって、主人も頭を抱えていましたが、あるとき大学時代の友達からの誘いがあり、ネットで化粧品を売る会社の仕事をするようになったんです。あのときは楽しそうでしたね。28歳のときに結婚し、孫もできて、やっと一人前の男になってくれたと思ったら、会社が倒産したんです」
息子が会社に行くと、オフィスが閉鎖されており、立ち入り禁止の張り紙がされていたという。
「経営陣がお金を持って、トンズラしちゃったみたいで、20人近くいた社員は、給料も払われず、途方に暮れていました。裁判をしようにも、お金もかかるし、回収も不可能です。息子は泣き寝入りすることになりました」
しかし、妻子を養わなくてはならず、派遣社員として、家電量販店の店頭に立つことに。
「息子がやってみたいと選んだ仕事なのに、主人が“そんな仕事は認めない”と怒鳴るんです。真面目に就職活動をしないこと、そもそも前の会社を辞めたこと、ネットの会社に入ったことなど、1時間くらいかな、ずっと怒鳴っていました」
夫は完璧主義だ。妻子さえも、自分の思い通りにしなければ気が済まない。朋美さんは「自分で決めるより、他人に決めてもらった方がラク」というタイプなので、それほどストレスはないというが、息子はどうだろうか。
「それから1週間くらい後に、また息子が痴漢で逮捕されたのです。このときは、主人を巻き込んで大騒ぎになりました」
【殺してやると殺気立つ夫を制止したのは……後編へと続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。