シスターフッド(女性同士の連帯)を描いた映画やマンガがヒットし、女性同士の友情が注目されている。しかし、現実は、うまくは行かない。これは女性の友情の詳細をライター・沢木文が取材し、紹介する連載だ。
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最近、「カサンドラ症候群」という言葉をよく見かける。これは、発達障害傾向があるパートナーと意志の疎通が円滑にできないことに悩み、不安や抑うつなど、心身が不調になることを指している。
ちなみにカサンドラとは、ギリシャ神話に出てくる王女の名前だ。彼女は予知能力があったが、アポロン神に呪いをかけられ、自分の予言を誰にも信じてもらえなくなる。その結果、悲劇の予言者となってしまうのだ。
「同居している友人が、おそらく発達障害傾向があるかもしれない。パートナーだけでなく、友達でもカサンドラ症候群になることもあるのではないでしょうか」と話すのは、愛知県に住む麻紀さん(62歳)だ。
建築会社で定年まで勤務、父親のDVで独身を選ぶ
麻紀さんは地元の短大を卒業後、上京する。会社員として勤務し定年まで勤めあげた。
「中堅の建築会社で総務のまま定年を迎えました。私がいた部署は、花形の設計や営業などとは異なり、とても地味な部署。“お局の吹き溜まり”“お局の姥捨て山”などと揶揄されていました」
世代的に「寿退社」や「肩たたき」などのプレッシャーもかけられたのではと推測する。しかし、麻紀さんが勤務していた建築会社は、処理する事務の量が膨大な割に、いつも人手不足。出世街道から外れた男性社員が課長以上のポストに就いており、皆優しくセクハラもパワハラもなかった。
「目立たない部署だから定年までいられました。それに、女性は給料がそもそも安いからリストラにさえ遭わなかった。私、最後まで手取りの給料が20万円以下でしたから。年収は300万円もなかったですよ」
麻紀さんは会社の居心地がよかったこともあり、結婚をしなかった。小柄で目立たず愛らしい雰囲気だから、「お嫁さんにしたい」と言われたこともあったという。
「父親がいわゆるDVだったんです。対外的にはいい人なのに、家族にはひどかった。兄は父に殴られて家出を繰り返し、音信不通に。去年、連絡があり独身のまま新潟県で亡くなったそうです」
兄は心筋梗塞で倒れ、救急病院に搬送されたものの、処置を受けて自宅に返されてしまい、その後亡くなったという。手術や入院の保証人となる家族がいないため、退院させられてしまったのだ。市役所の担当者から、麻紀さんに連絡があったという。
「コロナもあり、火葬されていました。遺骨をもらいウチの墓に入れることにしました。私という妹がいたから、兄は無縁仏にならずに済んだ。でも私には頼れる親族が誰もいない。東京で老後を過ごすのはかなりお金がかかり、誰かに迷惑をかける可能性がある。だから地元に帰ることにしたんです」
【東京の家を処分し、実家に帰る……次のページに続きます】