「あれ? なんて漢字だったっけ」と悩むことが多くなっていませんか? 少しだけ思い出す努力をしてみるものの、結局は「まあ、いいか」と諦めることもあったりして、記憶の衰えを実感することもあるのではないでしょうか? しかし、思い出すことが記憶力の鍛錬につながると言われています。
「脳トレ漢字」第141回は、「安穏」をご紹介します。「安らか」「穏やか」という意味を持つ漢字が使われている「安穏」。仏教の世界では、根本原理に通ずる大切な言葉になっています。実際に読み書きなどをして、漢字への造詣を深めてみてください。
「安穏」は何とよむ?
「安穏」の読み方をご存知でしょうか? 「あんおん」と読んでしまいそうですが……
正解は……
「あんのん」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「心静かに落ち着いていること。また、そのさま」と説明されています。平安時代には既に記述が見られるなど、古くから使われていた言葉であることがわかります。「安穏」の読み方は、「あんおん」の連声(れんじょう)となっています。そのため、「あんおん」と表記されていたとしても、「あんのん」と読むのが普通です。
また、連声とは、二つの語が連接する時に生じる音変化のことで、前の音韻とそれに続く音韻が合わさった結果、別の読みになるということです。安穏のほかには、「三位(さんい)」を「さんみ」と読んだり、「因縁(いんえん)」を「いんねん」と読んだりすることなどが挙げられます。
「安穏」の漢字の由来とは?
では、「安穏」を構成する漢字を一文字ずつ見ていきましょう。「安らか」という言葉にも使われている「安」という漢字は、女性が家の中でやすらいでいる様子を表しています。そして、「穏」という漢字は、穀物を集めて収穫する様子を表しているのです。
「女」が使われたり、部首になったりしている漢字は多数あります。理由としては、妊娠や出産など、女性は子孫繁栄において欠かせない大切な存在であると考えられてきたため、漢字の構成要素として多く含まれるようになったと言われることも。
また、人が家でやすらぐこと、そして、豊かな穀物が実ることは、古来より人々が願ってきたことでした。そのため、この二つの漢字を合わせることで、心静かに落ち着いている・平和であるという意味を持つ言葉が生まれたと考えることができます。
仏教の世界にも見られる「安穏」
浄土真宗の開祖・親鸞(しんらん)が残した教えの中に、「世のなか安穏なれ、仏法ひろまれ」という言葉があります。誰しもが幸せになること、平和な世の中が訪れることを望んでいますが、各自が自分の幸せのみを追求すると、その裏で悲しむ人が生まれたり、争いごとに発展してしまったりすることになるのです。
そのような事態を防ぐためには、共に生きることの大切さを実感できる知恵が人々の間に広がっていくことが重要であると、親鸞は考えました。一人一人が穏やかな気持ちで、正しい判断をすることで、おのずと平和で豊かな世の中、安穏が訪れるということです。
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いかがでしたか? 今回の「安穏」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 読み方が変化するため、漢字だけで判断すると、つい間違えて読んでしまうこともあると思われます。言葉の意味についても理解を深め、さらに知識を定着させていきましょう。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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