文・写真/北かえ(海外書き人クラブ/メキシコ在住ライター)

メキシコシティの中央広場、通称“ソカロ”。その一角に立つのが、メキシコが世界に誇るホテル、『グラン・ホテル・シウダッド・デ・メヒコ』だ。

エントランスからロビーへと続く階段

実はここは、世界中にファンを持つ大ヒット映画『007』に過去2度に渡って登場した“伝説の地”でもある。

映画『007』とグラン・ホテル

グラン・ホテルが『007』シリーズに初めて登場したのは、1989年に公開された『007/消されたライセンス』(原題:007 Licence to Kill)だった。イギリス人俳優ティモシー・ダルトン演じるジェームズ・ボンドが、ホテルにチェックイン後、エレベーター内でボンドガールから拳銃を受け取るのだが、言葉のない緊迫したシーンを背景の重厚感がより一層盛り上げている。

地上階でドアが開くとエレベーター内の華やかさに圧倒される

そして2015年、シリーズ24作目『007/スペクター』(原題:007 Spectre)でグラン・ホテルは再びファンの前に登場する。

映画の冒頭、イギリス人俳優ダニエル・クレイグ扮するジェームズ・ボンドがガイコツの仮面をつけてエレベーターに乗り込み、宿泊フロアに降り立つシーンは非常に印象的で、美しくも怪しげなその映像は観客を一気に物語の世界へと引き込んでいく。

いまなお多くのファンが聖地として訪れるグラン・ホテル・シウダッド・デ・メヒコ。その魅力は一体どのようにして生まれたのだろうか。

デパートから始まった歴史

現在グラン・ホテルとなっている建物は、実は初めから宿泊施設だったわけではない。

1899年9月、ヨーロッパのファッション用品を幅広く取り揃えるラテンアメリカ最大のデパートとして建設され、”エル・セントロ・メルカンティル”(スペイン語で「商業センター」)の名で開業した。

当時、オープンしたばかりのデパートを訪れた人々は、陳列された商品にだけでなく、アール・ヌーヴォー建築の美しさに釘付けになったという。

建物は決して大きくないが、空間を広く見せる工夫が随所に施されている

特に『007』にも登場したエレベーターは、吹き抜けのロビーを眺めながら移動できる国内初のシースルーエレベーターとして話題を呼んだ。

鉄格子のエレベーターは元特技兵の職人によって作られた

驚くべきは、このエレベーターが今も現役で動いていることだ。ホテルを訪れた客は、ベルボーイのアテンドで地上階から3階まで上がり、ジェームズ・ボンドが立ったまさにその場所で、物語に想いを馳せることができる。

さらに開業から7年後の1906年、デパートはある改装工事によって再び注目を集めた。フランス製の巨大ステンドグラスを天井に設置したのだ。

ステンドグラス越しに差し込む陽光で、日中のホールはとても明るい

フランス人アーティストによって製作されたこの作品には、2万個にものぼるティファニー・ガラス(※)が使われており、現存するステンドグラスとしては世界で4番目に大きいとされている。

※ラグジュアリーブランド「Tiffany & Co.」の創業者チャールズ・ルイス・ティファニーの息子でアメリカ屈指のデザイナーとして名声を得たルイス・コンフォート・ティファニーが、彼のスタジオの仲間と共に開発した、様々な色や型のガラス

アール・ヌーヴォーの代表的モチーフである花や草木などが色鮮やかに表現されている

メキシコシティ五輪がもたらした転機

デパートは、最先端ファッションを発信すると同時に、その建築美で訪れる人々を魅了し、当時のメキシコ社会に大きな影響を与えたが、1958年に閉業の時を迎える。

ほどなくして、建物を所有していた一族はホテルへの改装を決めた。背景にあったのは、1968年に予定されていたメキシコシティ夏季オリンピックである。ラテンアメリカ初の五輪開催にメキシコ国内は沸き立ち、世界中からやって来る観光客を迎えようとホテル開業の準備が進められた。

内部もさることながら裏側も美しいエレベーター

こうして1968年、オリンピックの開催を間近に控え、グラン・ホテル・シウダッド・デ・メヒコが誕生した。用意された120室の客室は華やかさと気品を兼ね備え、宿泊客を魅了した。

古さと新しさを融合した名ホテルへ

オリンピックと同年に開業したグラン・ホテルはその後、多くの要人が会合の場として利用するなど、メキシコ随一の名門ホテルとしての地位を確立していったが、決して胡坐をかくことはなかった。

2003年から3年間かけて大々的な改装工事が行われ、120室あった客室は60室に減らされた。現在、多くの客室はベッドルームのほかにリビングルームが設けられ、首都の中心部にいるのを忘れてしまうほどゆったり寛げる空間になっている。

一晩過ごせば気分はすっかり貴族になれる

またクラシックな雰囲気とは対照的に、バスタブやシャワー、テレビなどの設備はすべて新しくアップデートされ、隅々まで客人の居心地の良さが追求されている。

最上階から螺旋階段を上がると、ソカロを一望するテラスレストランへと出る。同じく2003年の改装時に新たにできたこの場所からは、正面に位置する国立宮殿、左手に見える大聖堂、そして広場に集う人々を眺められる。

屋上レストラン『ラ・テラサ』から望むソカロ

グラン・ホテル・シウダッド・デ・メヒコは、オリジナリティは守りながらも常に時代と共に進化し続け、メキシコが世界に誇る一級ホテルになった。ここでは古さと新しさ、それぞれの良いところがひとつに融け合い、旅人たちを“居心地の良い非日常”へと誘う。

いつかメキシコシティを訪れる際には、ぜひこのホテルに泊まってみてほしい。まるでスクリーンの中のような、きらめく世界があなたを待っている。

Gran Hotel Ciudad de México
住所:Av. 16 de Septiembre #82 Centro, Ciudad de México, CP 06000

参考資料:
ルイス・コンフォート・ティファニーについて | Tiffany & Co.
https://www.tiffany.co.jp/world-of-tiffany/about-louis-comfort-tiffany/

The Gran Hotel in Mexico City (granhoteldelaciudaddemexico.com.mx)
https://granhoteldelaciudaddemexico.com.mx/en/

¿Conoces la historia del Gran Hotel Ciudad de México? – Luces Mexicanas
https://lucesmexicanas.com/conoces-la-historia-del-gran-hotel-ciudad-de-mexico/

‘Spectre’ regresa a su Gran Hotel de la Ciudad de México (excelsior.com.mx)
https://www.excelsior.com.mx/funcion/2015/03/15/1013393


文・写真/北かえ(メキシコ在住ライター)
標高2250mのメキシコシティ在住ライター。日本のメディアでインタビュー記事やメキシコを題材にしたコラムを執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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