取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

2022年11月8日、内閣府は『配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等』の最新データを発表した。これは、家庭内における配偶者からの暴力行為(DV)の相談件数をまとめたものだ。2002年度は約3.5万件だったが、2014年度は約10万件の大台を突破。2021年度の最新データは約12万件だった。政府もDV防止法改正案を策定し、来年の通常国会への提出を目指しているという。

派遣社員の千秋さん(57歳)は「手を上げられたら逃げればいいのに。自分の人生の主導権を握れない女性を見ると、いつも腹立たしく感じる」と語る。というのも、親友の佳奈江さんが、いつも男性からのDVに悩まされていたからだ。

2人は高校の同級生という関係だったが、お互いが40歳のときに、SNSを通じて再会する。そこで、佳奈江さんは高校の教師と20歳で結婚し、23歳のときに長女を授かるも25歳で離婚。26歳で医師と再婚し、27歳で次女を出産したことがわかる。

2人が再会した40歳のとき、佳奈江さんは17歳と13歳の二女の母だったが、眼帯をつけるほどのケガを負っていた。

【これまでの経緯は前編で】

DV夫との離婚を手伝う

高校卒業から22年ぶりに再会した友達の目に眼帯がある。本人は「転んでぶつけた」と言うが、DVであるのは明白だった。

「話を聞こうとすると、佳奈江の携帯電話が鳴る。私が目の前にいるのに、電話に出て“近所のカフェにいる。高校の同級生と会っている”と応答。それから10分もしないうちに、背が高くてスタイルがいい44歳くらいの男性がやってきて、私に“佳奈江の夫です。はじめまして”と明るく挨拶し、“急用ができたから帰宅します。申し訳ございません”と言う。そして私にカフェでクッキーの詰め合わせをお土産に持たせてくれたんです。これほど礼儀正しく、優しそうでいい人が、佳奈江に暴力を振るうわけがないと思って、ホッとしました」

しかし、この夫が暴力の当事者だった。

「それから1か月後、佳奈江から連絡があったんです。“今から会えない?”と言うので、指定されたマンションに行きました。目もくらむような高級マンションで驚いたのですが、家の中に入るとさらにびっくり。20畳はあろうかというリビングは足の踏み場がないくらいのモノの山。キッチンから悪臭がするので中を見ると、餃子の種がぶちまけられているんです。そして、片づけを手伝って欲しいという」

そして、佳奈江さんは「主人がやった」と言った。激しい怒りを覚えた千秋さんは、夫に連絡。てっきり「俺も手伝う」と言ってくれると思ったが、「そこに深入りするな。すぐに家に帰れ」と言われた。

「冷たい人だと思いましたよ。でも、あの衝撃から17年経過した今では、主人が正しかったと思います。聞けば佳奈江は日常的に暴力を振るわれていたんです。しかも、結婚14年間も。暴力は肉体的なこともあれば、精神的なこともあるとか。別の女性と浮気をしているホテルに佳奈江を呼び出したこともあったそうです」

それを聞き、千秋さんは「佳奈江を助けよう」と思う。佳奈江さんは短大卒業から20年間、社会で働かず、専業主婦をしてきた。加えて17歳と13歳の娘がいる。離婚すれば自立して生活しなければならない。

「でも彼女を救いたかった。相談に乗るうちに、佳奈江の優しさ、美しさにどんどん惹かれていきました。彼女も“もうぶたれたくない”と泣いている。当時は相談センターなどもなく、どの弁護士に相談していいかもわからない。よかったのは、佳奈江が娘たちに対して執着していなかったこと。娘たちも成長しており、母親が必要な年齢ではなくなっていました。動き始めると、いい弁護士を紹介されたりもして、再会から1年で離婚したのです」

佳奈江さんはもらった慰謝料で江東区内にマンションを購入。娘たちは経済的に裕福な父親といるほうを選んだ。佳奈江さんは晴れて自由の身になり、千秋さんに涙を流して礼を言ったという。

千秋さんは、離婚の功労者だ。謝礼はいくらだったのかを質問したところ、「そんなものないですよ。ただ、彼女の実家からさくらんぼが送られてきましたけれど」と。

「友達を助けるって、貸し借りは関係ないんです。私は御礼をされたら、断っていたと思いますよ」

【自由の身になり、華麗な男性遍歴が始まる……次のページに続きます】

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