創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、「未来の国宝」候補といえそうな作品をご紹介します。
『金胎仏画帖』
密教の経典に登場する仏たちの姿が平安仏画のレベルの高さを今に伝える
『金胎仏画帖(こんたいぶつがじょう)』は、空海が日本に伝えたことで知られる真言(しんごん)密教の二大経典のうち、『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』と呼ばれる経典に登場する仏の姿を描いたもの。手がけたのは仏画(ぶつが)を描くことを職業としていた平安時代の絵仏師(えぶつし) ・詫磨為遠(たくまためとお)と伝わる。
この仏画はもともと熊本県の願成寺(がんじょうじ)に伝来したもので、その当時は表紙を入れて100ページ以上の冊子になっており、その中に金剛界を構成する95軀(く)にも及ぶ仏の姿が描かれていたという。現在は、いくつかの断簡(だんかん)となって各地の美術館や博物館に所蔵されているが、東京国立博物館には中でも最も多い18図が伝来した。
ひとつひとつの図像にそれぞれの仏の名称や基本的な情報が記されており、経典に出てくる仏の意味や、その役割などをわかりやすく説明するための仏像辞典のようなものだといえるだろう。
両界曼荼羅の理解のために
では、そもそもこの絵のもとになる『金剛頂経』とはいかなるものか。『日本大百科全書』(小学館)によれば《この経は、金剛界の思想を説き、金剛界曼荼羅(まんだら)のもととなる経典で、『大日経(だいにちきょう)』の胎蔵界(たいぞうかい)、胎蔵界曼荼羅に対する。『金剛頂経』はもと瑜伽行唯識(ゆがぎょうゆいしき)派の思想を受け、密教の三密思想(仏の身体、言語、心によって行われる行為は霊妙、不可思議な働きであるとするもの)、大日如来(にょらい)の信仰にたちながら、密教の認識論的、実践的側面を著しく発達させた》とある。
「金剛界曼荼羅」のもととなる経典ということは、この仏画帖に描かれた仏像とは、両界(りょうかい)曼荼羅の中の仏像をそれぞれ抜き出し1軀ずつ指し示したものということだと理解できる。つまりは、両界曼荼羅の図様を理解するための手引書でもあったわけだ。
「サライ美術館」×「東京国立博物館」限定通信販売
東京国立博物館創立150周年限定の高精細複製画を「サライ美術館」読者のためだけに受注製作します。
東京国立博物館監修の「公式複製画」をあなたの元へお届けします。
製作を担当するのは、明治9年(1876)の創業時から印刷業界を牽引する「大日本印刷」(DNP)。同社が長年にわたり培ってきた印刷技術を活用して開発したDNP「高精彩出力技術 プリモアート」を用いて再現します。
その製造工程は以下の通り。まず原画の複写データは、東京国立博物館から提供された公式画像データを使用。そのデータを、長年印刷現場で色調調整を手がけてきた技術者が、DNPが独自に開発した複製画専門のカラーテーブルを使って、コンピュータ上で色を補正。原画の微妙な色調を忠実に再現した上で、印刷へと進みます。
通常、印刷は4色のインキで行なわれているが、「プリモアート」では10種類のインキを用いて印刷が行なわれます。そのため、一般の印刷物に比べて格段に細やかな彩度や色の濃淡などを原画に忠実に再現することができます。
今回はさらに、そうして再現された複製画と額を東博の監修を受けた上で、館長・藤原誠さんの署名入り「東京国立博物館認定書」を付けてお届けします。東博150年の歴史の中で、こうした認定書を発行するのは、今回が初の試みとのこと。ぜひこの機会をお見逃しなく。