取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
専業主婦でお菓子教室を主宰している紫乃さん(仮名・53歳)は、幼なじみであり、高校3年間、毎日一緒におり、召使いのように扱っていた千鶴子さん(53歳)との関係に、複雑な感情を持っている。
私の言うことをなんでも聞いてくれる親友
紫乃さんと千鶴子さんは東京の郊外で生まれる。小・中学校は同じだったがお互いの存在を認識する程度。初めて言葉を交わしたのは、2人が進学した私立の女子校の入学式だった。目立つ美少女だった紫乃さんに、千鶴子さんが「同じ中学校だよね」と声をかけてきたのだ。
「番茶も出ばな、というけれど、私はそれなりに可愛かったんでしょうね。ラブレターもたくさんもらっていましたし、勉強もスポーツもでき、ピアノもできました。割とクラスでも目立つ子だったと思います。だから千鶴子は私に対して遠慮していたんじゃないかな」
千鶴子さんは個性が強く、海外の音楽や文化に詳しかった。家は商店をしており、一人娘である千鶴子さんのことを放任主義で育てていた。そこで千鶴子さんは自由にコンサートに行ったり、夜遊びに行ったりしていた。
「当時はそういうことをしている子は少なかった。多くの家が19時門限で家族そろって夕飯を食べるのが当たり前という時代です。でも、なぜか馬が合った。私は親から“人に迷惑をかけるな。礼儀正しく生きろ”と育てられたから、先に相手の顔色を窺ってしまうようなところがあるんです。自由に意見を言う千鶴子がうらやましかったのかもしれない。あと私は今でいうストーカーに付きまとわれていた。そういう時、千鶴子が家まで送ってくれたこともありました」
千鶴子さんの容姿は、紫乃さんよりも劣っていた。
「小柄で顔が大きく、目がギョロッとしていて達磨大師像に似ていた。ウチの母なんて口が悪いから“紫乃があの子と一緒にいるのは、自分の引き立て役にしたいからでしょ”などと言っていましたけれど。一緒にいたのは、千鶴子の話が面白いから。それに私の言うことは何でも聞いてくれて楽だったんです」
ジュースを買ってくる、体操着を持ってくる、告白してくる男を断るなど、千鶴子さんにさまざまなことを言いつけた。
「親友というより、彼女のワガママを聞いてくれる彼氏みたいだった。周囲からは“付き合っているの?”と言われたこともあったし、それが好都合だったんです」
紫乃さんは今も華やかな美貌の持ち主だ。女性にとって、容姿は目に見えぬ階層を決めてしまうようなところがある。紫乃さんと千鶴子さんの関係は、女王とそれにかしずく下僕といったところだろうか。
【「結婚した方がいいよ」と言ったら、「私は紫乃が好きだから」……次のページに続きます】