働く女性は増えているが、そのキャリアを結婚や出産で中断する女性も少なくない。マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp/)」から、女性の力の活かし方を学ぼう。
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2019年の労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は6,886万人と、前年に比べ56万人の増加となりました[1]。
男女別でみると、男性3,828万人(11万人増加)、女性3,058万人(44万人増加)と、女性の就業に対する意欲の高さがうかがえます。
さらに面白い結果として、15歳から64歳の労働力人口(いわゆる労働力の中核とされる年代)の増加に着目してみると、男性8万人の減少、女性33万人の増加となっています[1]。
就業者(労働力人口のうち、完全失業者を除いた人口で、従業者と休業者を合わせたもの)[2]の内訳をみると、正規の職員・従業員の男女別では、男性2,342万人(前年比5万人の減少)、女性1,161万人(前年比23万人の増加)、非正規の職員・従業員では、男性691万人(前年比22万人の増加)、女性1,475万人(前年比24万人の増加)となっています。[3]女性に限っては正規・非正規ともに増加傾向が続く状況です。
このように、働く女性が増える今の日本の情勢ですが、その一方で女性はまだまだ、結婚や出産でキャリアを中断する人が少なくありません。
そこで今回は、女性の起業、あるいは幹部社員への登用を中心に、女性の力をどのように経営の力に変えていくのかということについてお話していこうと思います。
キャリアを中断する「優秀な女性」たち
総務省統計局の労働力調査(2019年)によると、15歳以上人口について、育児をしている人は1,112万人(有業者881万1千人、無業者230万9千人)、そのうち男性の有業者の割合は98.9%、女性の有業者の割合は64.2%となっています[4]。また、「出産・育児のため」に離職をした人について、有業者は31万4千人、無業者は71万1千人となっています(図2)。
そして、無業者のうち女性は70万9千人で、実に99.8%を占めています[5]。平成24年から比べると、出産・育児を理由として離職する率は減少しており、国の政策や企業努力の成果が見受けられますが、それでも離職という選択肢を選ばざるを得ない現実があります。
日本ではまだまだ、「女性は子供を生んだら仕事を辞めて子育てに専念する」という価値観が根強く残っていることが、数字からうかがえます。社会全体から見ても非常に大きな損失と言えるでしょう。
このことは下記の図3、諸外国との比較の上からも顕著です。諸外国の女性の年齢階級別労働力率と比較してみると、日本が「M字カーブ」なのに対し、日本以外の諸外国は「逆U字カーブ」を示しています。M字カーブとは、30-34歳の出産・子育て期において女性の就業率が下がり、出産・子育てに一段落がつく40代前半から再び上昇する事実を意味します。これは、諸外国における仕事と子育ての両立支援策の充実等、女性が働きやすい環境条件の整備がされている証と言えるでしょう。
これ以外にも、働き方としてフルタイム労働からパートタイム労働への転換がしやすいことや、女性の高学歴化の進展等も考えられますが、いずれも、社会全体で育児をサポートする意識が高いことを示しています。
また下記図4は、日本における未婚・有配偶者別の労働力率を比較したものです。20歳代から40歳代にかけて、結婚している女性と未婚の女性の労働力率の差は顕著です。もちろん中には、自発的に「結婚後は子育てに専念する」と言う生き方を選ぶ人もいるでしょう。しかし大勢として、「女性は結婚かキャリアの二者択一を迫られる」社会であると考えて良さそうです。
2006年に国連開発計画(UNDP)が発表した「人間開発報告書」によると、日本は、
・人間開発指数(HDI)が(測定可能な)177カ国中7位
・ジェンダー開発指数(GDI)が(測定可能な)136カ国中13位
など、実は意外にも「人を育て」「女性の能力を開発すること」に優れた国であるという評価が成されています。
その一方で、
・ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)[6]が(測定可能な)75カ国中42位
と、かなり低い結果が出ました。
つまり、人間開発の達成度については実績を上げている日本ですが、女性が政治経済活動に参加し、意思決定に参加する機会については不十分であると言えるでしょう。言い換えれば、日本はさまざまな教育の機会を提供し、女性の能力開発に成功しているにも関わらず、それを使いこなせていないということです。
この状況はただただ、「もったいない」という表現以外に、適切な言葉が思い浮かびません。まともな企業経営者であれば、この「社会に眠る遊休資産」に目をつけないほうが、センスを疑われると言って良さそうです。
女性の起業の壁とは何か?
それでは実際に、女性が育児・出産という離職から「起業」もしくは「キャリアの再開」と言う形でビジネスの世界に戻ろうとした時、起業のハードルには、どのようなものがあるのでしょうか。
経済産業省が全国各地で支援・整備を行う女性起業家等支援ネットワーク構築事業の「平成30年女性起業家等支援ネットワーク構築事業活動報告書」[7]によると、女性側が感じる起業へのハードルとして、
「やりたいことはあるが、事業化の方法が分からない」
「起業について気軽に相談できる相手がいない」
「仕事と家庭の両立」
といった意見が見られます。
男性に比べ、キャリアを中断し社会活動でのネットワークが不足してしまった女性にとって、例えば
「起業のための資金調達について」
「顧客確保のための営業について」
など、誰にどのように相談すれば良いのか分からず、一人で悩み抱え込んだ結果、起業を断念している実態がうかがえます。
筆者も現在の社労士事務所を開業した当初、事業の方向性について相談できる相手がおらず、毎日ネットを使い必死に情報収集をした記憶があります。会社員から、実務経験もないまま開業したため、この先どうなるのか不安を感じない日はありませんでした。こうした自身の経験からも、起業への想いを形にする手段が分からず、起業をあきらめてしまうケースは多いものと思われます。
起業の前に女性が準備すべきこと
それでは、起業を考えながらも情報不足に悩む女性は、どのような準備から始めればよいのでしょうか。
「女性起業家支援ノウハウ集」[8]によると、女性特有の起業時の課題として
「家事・育児・介護との両立」
「経営に関する知識・ノウハウ不足」
「事業に必要な専門知識・ノウハウ不足」
と回答する女性の割合が、男性に比べて高くなっています。これは、女性の就業経験年数の短さから、経営や事業に関する知識や経験を得る機会が少ないこと、また、そうした知識・ノウハウを与えてくれる助言者に出会う機会に乏しいことが要因になっていると考えられます。
このうち、「家事・育児・介護との両立」ついては、配偶者との役割分担や行政に期待するところが大きく、外野が支援できることはあまり多くないかも知れません。
しかし、
「経営に関する知識・ノウハウ不足」
「事業に必要な専門知識・ノウハウ不足」
の2つについては、メンター、すなわち先輩経営者の指導や協力こそが大きな力になっていくことでしょう。
前述のように、社会に眠っている女性の力は「遊休資産」です。その力を引き出し、その活躍を応援することは決して慈善事業ではありません。
メンターとなる経営者側にも大きな財産となり、また刺激し合いながらお互いの成長にも寄与する……これが理想的な経営者ネットワークの在るべき姿です。起業を志している女性もぜひ、自分の目標となる先輩経営者やメンターの獲得を、まずは目指してみてはいかがでしょうか。
これからの経営者に求められること
間もなく同一労働同一賃金がスタートすることから、賃金形態は「職能給」から「職務給」へとシフトしくことが予想されます。個々の労働者の能力や経験は均一ではないため、評価が難しい反面、これまで野放しだった労務管理に目を光らせる必要が出てきます。
これからの日本は、人口減少や高齢化が進み、就業者数の増加・就業率の改善に期待は持てません。その分、労働生産性を上昇させることで、より多くの付加価値を生み出し、その余剰分が賃金として労働者へ還元される仕組みが、企業の目指すべき未来となります。
そして労働生産性や付加価値を高めるためには、業務の効率化と新しい「ものの見方」が不可欠です。
ここでも活躍できる可能性を秘めているのが、「キャリアを再開する女性」です。その一つのあり方として、上述のように起業という方法もあるでしょう。そして起業に至らずとも、自ら行動し、自ら新しい付加価値を生み出したい熱い意欲を持ちながら「起業に至らなかった女性」を取り込むこともまた、企業経営には非常に有益な手段となりそうです。
2006年、東証一部上場でテレビCMなどでもお馴染みのブックオフの社長に就任した橋本真由美氏は、41歳でパートタイマーとして入社した元主婦でした。
2007年、駅弁販売の(株)日本レストランエンタプライズで大宮営業所長に就任し10億円の売上を上げるに至った三浦由紀江氏もまた、44歳の時に時給800円で同社に入社した、元主婦です。いずれのお二人も、経営者との血縁関係などは一切ありません。
それぞれ、子育てに一段落を付けた後にパートタイマーからキャリアを再開した「M字カーブ」組であり、実力で結果を出し続け、責任ある仕事とポジションを任されるに至ったものです。このような例は枚挙に暇がなく、女性という労働力・経営能力が、男性中心であったビジネスシーンに新しい付加価値をもたらす存在になるであろうことは、疑いの余地がありません。
国連開発計画(UNDP)が発表したように、日本は
・女性という人材の能力を開発することに成功し、
・そのまま放置している
状況と言えるでしょう。
ぜひこの、「出産・育児卒業組」の女性の力に、改めて注目してみてはいかがでしょうか。
最後に
筆者が社労士として、多数の顧問先と関与する中で感じたことは、女性労働者はコミュニケーションを重視する傾向にあるということです。業務を指示する際にも、適切なコミュニケーションを挟めばその力をさらに引き出すことができるでしょう。
そして、優秀な女性を業務遂行、ひいては経営判断の一部に取り込むことこそが、女性の力を引き出し、女性の消費を刺激するために不可欠な要素となっていくのではないでしょうか。時代の過渡期にあって、そのように組織をリードすることこそ、今の経営者に求められている姿勢と言えそうです。ぜひ、新しい価値観に果敢にチャレンジしてください。
【参照】
[1]参照:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2019年平均速報p1
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
[2]参照:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2019年平均速報「用語の解説」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
[3]参照:総務省統計局/労働力調査(基本集計)2019年平均速報p9
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
[4]参照:参照:総務省統計局/平成29年就業構造基本調査(結果の概要)p2
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf
[5]参照:総務省統計局/平成29年就業構造基本調査(結果の概要)p3
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf
[6]:GEMジェンダー・エンパワーメント指数(GenderEmpowermentMeasure)…女性が政治および経済活動に参加し、意思決定に参加できるかどうかを測るもの。HDI人間開発指数(HumanDevelopmentIndex)が人間開発の達成度に焦点を当てているのに対して、GEMは、能力を活用する機会に焦点を当てている。具体的には、国会議員に占める女性割合、専門職・技術職に占める女性割合、管理職に占める女性割合、男女の推定所得を用いて算出している。(引用元:総務省男女共同参画局/平成19年版男女共同参画白書・第3節様々な分野における女性の参画(人間開発に関する指標)
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h19/zentai/danjyo/html/honpen/chap01_01_03.html
[
7]参照:経済産業省/女性起業家等支援ネットワーク構築事業(女性起業家支援ノウハウ集)p7(4)女性起業家支援の特徴と重要性
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/joseikigyouka/pdf/knowhow.pdf
[8]参照:経済産業省/女性起業家等支援ネットワーク構築事業(女性起業家支援ノウハウ集)p8
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/joseikigyouka/pdf/knowhow.pdf
【この記事を書いた人】
識学総研編集部 株式会社識学内にある、コンテンツを企画・制作する編集部です。『「マネジメント」を身近に。』をコンセプトに、マネジメント業務の助けになる記事を制作。
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いかがでしたか。これからの会社経営に必要な女性の持つ新しい「ものの見方」の重要性がおわかりいただけたでしょうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/