30万部突破『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』を監修し、脳神経を専門としてこれまで約1万人の患者を診てきた内野勝行先生の著書『1日1杯 脳のおそうじスープ』から、衰えてきた脳に必要な「脳のクリーニング」についてご紹介します。
文 /内野勝行
2019年7月に開催されたアルツハイマー病国際会議において報告された、アルツハイマー病に関する調査研究によれば、認知機能低下や認知症のリスクを抑える可能性がある要因として、「食事」「運動」「健康的な生活習慣」の3つが挙げられました。
食事、すなわち栄養に関してはこれまでに述べてきましたので、ここでは認知機能の向上または、機能低下防止が期待できる方法や生活習慣をいくつかご紹介していきましょう。米国のデール・ブレデセン医学博士が開発した、アルツハイマー病の予防・治療プログラムとして知られる「リコード法」。
その柱のひとつが「運動」です。実際、体を動すことが少ない、座ったままのデスクワーク中心の仕事に携わってい る人は、体を動かす職業に携わっている人よりも認知症のリスクが高いことがわかっています。
また運動のなかでも、有酸素運動はアミロイドβの排出に有効です。これは脳の神経細胞を活性化するドーパミンと呼ばれるホルモンが分泌され、さら にアミロイドβを分解する酵素を増やすことができると考えられているからです。また、脳の血流やリンパの流れも改善できるため、アミロイドβの排出を促すことも期待できるでしょう。
ピッツバーグ大学のエリクソン博士らが、 2012年の国際アルツハイマー病学会で発表した研究結果によれば、有酸素運動は海馬の大きさ自体を増やし、記憶力改善も認められたといいます。 このように、運動の有用性を裏づける研究結果が世界中から続々と発表されています。
私のクリニックでも、ゲームを行ったりする普通のデイサービスに通う患者さんよりも、ストレッチなどの運動を積極的に行う運動型デイサービスに通っている患者さんのほうが認知機能の改善が認められているケースが多いです。
いずれにせよ、若いうちから運動習慣をつけるということが認知機能の低下を防げることは間違いないと断言できます。
ここでひとつ、特に40~50代の若い方にも知っておいてほしいことがあります。それが、ロコモティブシンドローム、サルコペニアです。ロコモティブシンドロームとは、運動器症候群とも呼ばれる障害で、一般的には、 「ロコモ」と呼ばれています。
運動器とは、人間が動くために使われる、筋肉、骨、関節、軟骨などの部位のことで、ロコモはこれらに障害が発生することで「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態のことです。 ロコモが悪化すると日常生活に支障をきたし、最悪の場合には寝たきりの状態になることもあります。
またサルコペニアというのは、もっと限定的な言葉で、筋肉が減り、筋肉の力が弱 っている状態のことです。ロコモが悪化することで体が動かせなくなることから、サ ルコペニアも悪化していきます。
若い方は「まだ自分とは無縁だ」と思いがちです。しかし、長年の運動不足が蓄積して発症するのがロコモですから、対策しておいて 早過ぎることはありません。10年後、20年後を見据えて、若いうちからこまめに体を動かす習慣をつけておいてほしいのです。
私も患者さんには、とにかく毎日少しずつでもいいので運動をすることをおすすめしています。ただ、高齢の方の場合、無理に運動をすると関節を痛め、逆にロコモを悪化させてしまうことにもなりかねません。
最近さまざまなメディアで取り上げられているせいか、「スクワットは効果的ですか?」と質問してくる患者さんもいらっしゃいます。
スクワットや腹筋、腕立て伏せのような、大きな筋肉を動かす運動は血流やリンパの流れを促す効果が高いため、若々しい運動器を維持できていて関節などに問題がない人なら効果的だと思います。ただし一般的に、スクワットは関節に負担をかける運動なので、個人としては高齢の方にはおすすめしていません。
脳の血流やリンパの流れも改善し、脳のゴミの排出を促すことが目的ですから、筋トレやジョギングなどのハード運動でなくとも、自宅でも行えるレベルの関節への負荷が少ない運動で十分だと思います。
運動は断続的に行うよりも、毎日、習慣的に行ったほうが効果を得られるので、気負わず行える軽い運動をするようにしましょう。
「脳のおそうじスープ」の“素”の作り方
【材料(約8杯分)】
・トマト:大1個(200g)
・蒸し大豆、くるみ:各50g
・桜えび:10g
・すりごま:大さじ3(18g)
・ツナ缶(ノンオイル):2缶(140g)
・塩:小さじ1(6g)
・中濃ソース:大さじ1(18g)
・こめ油:少々
【作り方】
1 トマトをおろし金ですりおろす。
2 蒸し大豆とくるみを保存袋(大)に入れてくるみを砕きながら揉む。
3 2に1とその他の材料を入れる。
4 揉み混ぜてから平らにして冷凍保存する。
スープを飲むときは、冷凍庫からスープの素を60gほど割って取り出し、熱湯150mlを注ぎ、こめ油を少し垂らす。摂る頻度は1日最低1杯、時間帯はいつでもかまわない。
なぜ「脳のおそうじスープ」は効くのか
内野院長は、このスープには「脳の状態を整えるうえで有効な栄養素や機能成分が余すところなく含まれています」と説く。
例えば、ツナ缶のマグロの脂に含まれるDHAやEPA。これらは、血液サラサラ効果が高い点で特筆すべき栄養素だという。実は、アミロイドβ=「脳のゴミ」対策の前提として必要なのが、「血の巡りを良くしておくこと」。血管内に中性脂肪や悪玉コレステロールが多いと、いわゆる「ドロドロ血液」になる。こうなると、脳のゴミは血流に乗って体外へと排出されにくくなってしまう。また、認知症の2~3割は、「脳梗塞や脳出血・くも膜下出血など、脳の血管の病気によって引き起こされる脳血管型」だそうで、その意味でも、血液をサラサラの状態に保っておくことは重要。そのため、ツナ缶はスープの主要素材の一つとされている。
そして、トマトや桜えびには、抗酸化物質であるリコピンやアスタキサンチンが含まれている。内野院長は、アミロイドβ並みに怖い、ある種の脳のゴミとして活性酸素を挙げる。最近よく耳にする活性酸素は、普通の生活をしていても体内で発生する。これが過剰に発生すると、「さまざまな病気にかかるリスクが高まる」だけでなく、「アミロイドβの蓄積も促進」されるという。さらに、アミロイドβが活性酸素を作り出し、アルツハイマー病を発症するという研究報告もあるそうで、それを防ぐ抗酸化物質は、脳のおそうじの力強い味方になる。
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『記憶力アップ×集中力アップ×認知症予防
1日1杯脳のおそうじスープ』
内野勝行(うちの・かつゆき)
30万部突破『疲れをとりたきゃ腎臓をもみなさい』を監修した名医。帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院副院長を経て現在、金町駅前脳神経内科院長。脳神経を専門としてこれまで約1万人の患者を診てきた経験を基に、脳をクリーニングする「脳のおそうじスープ」を開発した。フジテレビ「めざましテレビ」やテレビ朝日「林修の今でしょ! 講座」などテレビ出演多数で、様々な医療情報番組の医療監修も務める。