取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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東京都墨田区に住む吉田里子さん(仮名・70歳)は、「真面目だけが取り柄なんです」という一人息子(45歳)について、問題を抱えているという。それは息子が7年前に結婚した女性(44歳)とその連れ子(15歳)について。
【これまでの経緯は前編で】
息子は嫁の言いなりになっていた
息子は女性に免疫がなかった。小学校から高校までは勉強をしたり、男友達とカメラやロボットの話をして楽しく過ごしていた。大学も国立大学の工学部で9割以上が男性。入った会社も技術職で、男性の中で育った。
「合コンに連れていかれたこともあったみたいですけど、たぶん何もなかったと思います。あの子はおっとりしていて奥手なので。だから38歳のときにあんな女に引っかかった。図々しくて強引でとても嫌な女なんです。よく、ママ友間の支配が殺人に発展した事件などが報道されるじゃないですか。ああいう首謀者にそっくりなんです。一見、観音様か菩薩様のように見えるんですが、少し話すとどす黒い何かが渦巻いているのがわかる。相手を支配して何かを奪うことが自然にできる人っているんですよ。“この人と結婚する”って息子が嫁を連れてきたとき、夫は絶句していましたね。夫も退職してからすっかり穏やかになって、夫婦の関係もよくなって、穏やかな毎日を過ごしていました。でもあのときは、昔の疳癖な夫がむくっと立ち上がった気がしてブルっときましたよ。私たちはその場で結婚に大反対。でも強引に入籍した。息子は結婚するまで実家にいて、そのまま同居したがっていましたが、追い出しましたよ」
現在、里子さんが住む家は、里子さんの実家だ。かなり広く古い家で維持費も固定資産税もかかるのでお金は出ていく一方だと言う。
「庭をつぶして駐車場にするという話も合ったけれど両親が大切にしていたのでそれもできず。夫が実家に仕送りをしていなければ、もっとお金はあったんでしょうけれどね。年金や株の配当金やらで、なんとか生活を維持できている感じ。おそらくあの嫁はうちを狙っていたんだと思いますよ」
息子は結婚して最初の3年は楽しそうにしていたという。
「息子一家は近くに住んでいるので、ショッピングセンターや連れ子の学校の近くで息子と連れ子が楽しそうに歩いているのをよく見かけるようになりました。3年もすると私たちも“これでよかったのではないか”と息子と連れ子を受け入れた。それまで息子しかウチの敷居を跨がせなかったのですが、連れ子にも許可した。ちょくちょく遊びにくるようになり、連れ子が中学校に進学するとき、夫はお祝いに2万円も包んで渡した。あれにはひっくり返りましたよ。シブチンの夫が連れ子にあげるって、大珍事。それと同時に“そのお金、私に頂戴”って心の中で叫んだわ(笑)」
里子さんは密かに息子に実子が生まれることを期待していたが、あの嫁が産んだと思うと愛せないかもしれないと心配もしていた。しかしそれは杞憂に終わった。
「今思えば、生まれなくてよかった。2年くらい前から、息子と連れ子が実家に来るようになったんです。聞けば嫁が外出しがちだという。息子と連れ子は、土日の夕飯時に来て、食事を食べて帰って行く。夫婦2人なら出来合いのもので適当に済ませられるのに、普段ロクなものを食べていないと思うから、ハンバーグをこねたり、カレーを煮たりするでしょ。食費がかさむのよ。それなのに息子は何の金も渡さない。このころからおかしいとは思っていたんですよね」
【有り金を全て引き出し、連れ子を置いて嫁は消えた……次のページに続きます】