親しい友人や、なかなか会えない親族、そして仕事を通じて出会った人々など、直接会って年始の挨拶ができない場合にも、できるだけ失礼のないように… と続いている年賀状。
高齢になるにつれ、次第に年賀状のやり取りを続けることに負担を感じるようになる方もいるのではないでしょうか。そんなときに考えたいのが、終活年賀状です。
目次
変わる年賀状のかたち
終活年賀状とは
終活年賀状のメリット・デメリット
終活年賀状のタイミング
終活年賀状の書き方
まとめ
変わる年賀状のかたち
年賀状自体の起源は平安時代ともいわれています。もともとは貴族社会の風習の中で、年始の挨拶回りの一環として、遠方で直接挨拶ができない場合に送っていたようです。形式も、名刺の裏に一言メッセージを入れたような、簡易なものであったともいわれます。
その後、江戸時代以降の飛脚の制度によって、手紙を送る文化が庶民にまで広がりました。明治以降は、郵便制度のスタートに伴い拡大し、現在のように年が変わらないうちに投函し、明けて元旦以降に配達されるような仕組みに変遷してきています。
年に一回、はがきで送る形式になってからは、およそ150年。インターネットの出現でメール文化が発達、スマートフォンの普及により、SNSなどでやりとりができる便利な世の中に。それに伴い、年始の挨拶をメールやSNSで行う方も多くなりました。しかし、まだはがきによる年賀状も健在です。
終活年賀状とは
年賀状には「一年間の感謝を伝える」「普段会っていない人と連絡を取る」「関係性を継続する」などの効果があります。しかし、視力や気力などに衰えを感じてくるにつれ、毎年の作業に対する負担感が増していきます。
終活年賀状とは、年賀状じまいとも呼ばれ、年賀状のやりとりは今回を最後に、そして来年からは出さないことを伝える挨拶状を指します。
昨今のコロナ禍で、人と会うことに多くの制限がかかるようになりました。こうした制約の中で、パソコンやスマートフォンを使った交流に挑戦するシニア世代が増え、手軽で便利な連絡ツールとして活用されている風潮もあります。こうした変化も、世間で年賀状じまいが話題となってきている背景のひとつといえるでしょう。
終活年賀状のメリット・デメリット
終活年賀状、いわゆる年賀状じまいのメリットとデメリットについて、実際に取り組んでいる方の事例もふまえてご紹介します。次の年賀状から取り組んでみようと思っている方の参考になれば幸いです。
メリット
終活年賀状に取り組むメリットとして、まずは自分自身の人脈や交友関係の整理につながるという点が挙げられます。しかし、整理をしようと取り組んだ方の中には、お世話になった方々への感謝の気持ちが溢れ、結果的に年賀状じまいはできずに終わってしまうということも…。年賀状じまいを一気に完結させるというよりも、一部はやめつつ、徐々に減らしていくというように段階を踏む方も多いようです。
整理することにより、年賀状を出す枚数が減るので、年賀状にかかる費用や作成の時間が軽減されるという、わかりやすい利点もあります。
また、年賀状をやめたことがきっかけで、年に1回きりだったやりとりから、気軽にメールやSNSで連絡するようになるなど、以前よりコミュニケーションが円滑になったというようなケースもあります。
デメリット
年賀状じまいのデメリットとしては、送り手と受け手との感覚の差があった場合、「年賀状を送ってこないとは、失礼だ!」と相手に反感を買われてしまうケースが考えられます。お世話になった大先輩で、毎年こまめに住所・全文を手書きでいただく人などに対しては、一方的に年賀状をやめるのが難しいこともあるかもしれません。
人間関係は、預金や不動産のように経済的な価値を数値化しやすい資産ではないものの、長年培ってきた、そしてこれからも続いていく、ひとつの大きな資産です。年賀状の交流がなくなることで、社会的なつながりという無形の資産に影響が出ることもあるかもしれません。そこはドライに割り切ってよい関係なのかどうか、波及する今後の影響も含めて検証が必要になるでしょう。
終活年賀状のタイミング
終活年賀状を準備する時期は、全員にあてはまるような「適齢期」がはっきりと決まっているわけではありません。ただ、状況によって一定の目安はあるとは思います。たとえば会社勤めの方であれば、仕事を中心とした人間関係が終盤にさしかかってくる、50代から60代くらいが最初の検討の時期になるかもしれません。
また、定年退職や、古希や還暦などの祝い年といった、明確で相手にもわかりやすいタイミングを選択するのも、きっかけとしては利用しやすいでしょう。
それ以外の時期としては、気力や体力の衰えに応じたタイミングもありますが、終活年賀状のための整理をするのにも、それなりのエネルギーが必要です。あまり取りかかりが遅くなると、負担をより大きく感じる場合もあります。
終活年賀状の書き方
それでは、終活年賀状の書き方を解説していきます。
やめる理由は簡潔に、納得のしやすいものを。
おすすめできるかどうかはともかく、いちばんシンプルな終活年賀状の方法は、とくに何の連絡もせず、年賀状を送らないことです。ただ、突然つながりを止めてしまう強引なやり方には、抵抗のある方もおられるでしょう。その場合には、「今回で最後の年賀状とさせてください」の内容に加えて、「今後は別の方法で引き続きやりとりをしましょう」などの案内をすることが必要です。
終活年賀状といっても、年賀状であることには変わりません。書く順番は、通常の年賀状と同じく、年賀の挨拶などの基本的・定型的な部分はできれば、冒頭にもってきておきたいところです。全文印刷でもかまいませんが、やはりどこかには手書きでメッセージを入れておくのも、通常と変わらないマナーのひとつでしょう。
そして、これは通常の年賀状にはない要素ですが、今回で年賀状を最後にしたいという意思表示と、できればその理由も簡潔に記しておくとよいでしょう。詳細な理由までは必要ありませんが、定年などのタイミングを契機としたものなのか、高齢のためのものなのか、あるいはメールやSNSなどのほかの連絡手段に変えたいためなのか。シンプルかつ納得のしやすい理由を短文で添えます。
そうすることで「相手に非があって絶交宣言しているのではない」「広く通知しているもので、相手を選んでいるわけではない」というメッセージの役目を果たします。
今後のおつき合い
年賀状の切れ目が縁の切れ目というわけではありません。「年賀状の形式はやめるけれども、今後もお付き合いは続けたい」という意向は明確に。できれば、メールアドレスやSNSのIDなど、代わりとなる連絡手段を併記しましょう。年賀状じまいはあくまで手段としての「卒業」であり、「目的である交流そのものは続きます、別の手段で連絡を取り合いましょう」、と伝えることをおすすめします。
まとめ
年賀状は古くから続く日本の文化ですが、郵便はがきというスタイルをとるようになったのは、あくまで明治以降のこと。そうしたことを考えると、時代にあわせて挨拶の手段を変えるのは自然の流れなのかもしれません。
終活年賀状を、人間関係という無形の資産をアップデートするチャンスとして、まずはできるところから気軽に取り組んでみてはいかがでしょうか。
●構成・編集/内藤知夏(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/坂西 涼(さかにし りょう)
司法書士法人おおさか法務事務所 後見信託センター長/司法書士
東京・大阪を中心に、シニア向けに成年後見や家族信託、遺言などの法務を軸とした財産管理業務専門チームを結成するリーガルファームの、成年後見部門の役員司法書士。
「法人で後見人を務める」という長期に安定したサポートの提唱を草分け的存在としてスタート、
全国でも類をみない延べ450名以上の認知症関連のサポート実績がある。認知症の方々のリアルな生活と、多業種連携による社会的支援のニーズを、様々な機会で発信している。日経相続・事業承継セミナー、介護医療業界向けの研修会など、講師も多く担当。
司法書士法人おおさか法務事務所(http://olao.jp)