「終活ノート」と聞くと、死のイメージを強く持つ方もいらっしゃるかもしれません。ただ、「終活ノート」は、単純に死に向かっていくためのものではないのです。人生を振り返ってもういちど見つめ直し、その後の人生を前向きに生きるために、頭の中を整理するツールと捉えることもできるでしょう。今回は、「終活ノート」について、掘り下げて解説していきます。
目次
終活ノートとは
終活ノート活用のメリット
終活ノートの選び方
終活ノートを自作する場合
終活ノートの管理
まとめ
終活ノートとは
終活ノートとは、自分の人生の終末について、さまざまな項目について情報を整理したり、考えをまとめておいたりする目的で作られるノートのこと。「エンディングノート」とも呼ばれています。
終活ノート活用のメリット
法律上でも有効な形式の遺言書などとは違い、終活ノートに書かれたことは必ずしも拘束力を持つわけではありません。ですから、気軽に書くことができ、何度でも書き直せます。また、ノートを書くというプロセスを通じて、色々なことに気づくきっかけになる利点もあります。
例えば、自分の介護についての希望や、延命措置をするかしないかなど、家族が独断で決めることが難しく悩んでしまうようなことについては、ノートの記載が役立つこともあるでしょう。本人の希望に沿うことで、どのような結果になるにせよ、勝手に決めたわけではないことから家族の辛い気持ちを和らげることにつながります。
そして、終活ノートを書くことは、自分史を書くことでもあります。自分がいかにたくさんの人に支えられて生きてきたかを実感すると、感謝の気持ちが芽生え、改めて家族や周囲の人々への愛情を示すことにもつながってくるでしょう。
終活ノートの選び方
終活ノートを探しに書店や文房具店に行くと、たくさんの種類があることに驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。今では百円均一ショップにもあります。ちなみに、この終活ノートブームの火付け役は、文具メーカーのコクヨが発売したノートでした。
ここでは、たくさんある終活ノートの種類と選び方をご紹介します。
無料配布されているもの
近年はインターネット上でも、書きたい項目だけを選んでダウンロードすることのできる無料配布のものが増えました。発行元はさまざまで、民間企業や士業者発行のものまで、幅広く存在しています。また、自治体によって終活ノートの無料配布を取り扱っているところも出てきています。
しかし、いずれも基本的にはパソコンの標準設定では書き込みが難しいPDF形式をとっているため、実際に記入するには印刷してから手書きをする流れになります。
終活ノートは、書いてから亡くなるまで長期間にわたって保存することが原則です。そのため、無料データのものを出力してせっかく記入しても、きちんとファイリングするなど保管方法を工夫しておかないと、いざというときに親族に見つけてもらえなかったり、インクや紙の劣化で読んでもらえなかったりという事態も想定されるので注意しましょう。
選び方
「終活ノート」の種類は豊富です。それぞれに特徴がありますので、購入の際に比較するためのポイントをご紹介します。
比較ポイント1:形状
・ファイルタイプのもの(ネット販売で多いタイプ)
・本のタイプのもの
・水濡れなどに配慮したビニールのカバー付きのもの
比較ポイント2:構成内容
・自分史を書き込む部分が多いもの
・資産の管理など、お金に関することを重視したもの
・相続や遺言に関する知識コラム入りのもの
・パスワードやID情報などのデジタル遺産や、コロナ禍対応などの新しい事項入りのもの
・ある程度自由に記入できる部分があるもの
比較ポイント3:記入欄
・記入欄が広くとってあるもの
・大きな文字サイズのもの
・書き込みを抑え、要点をコンパクトにまとめたもの
・多くの物事を書きながら整理できる分厚いもの
アプリを使う場合
スマートフォンの普及を受けて、アプリで終活ノートを提供しているところもあります。スマートフォンのみで気軽に作成でき、自由に修正や編集ができるようになっているものがほとんどです。また、写真データをアプリ内に保存できる機能付きのものもあります。
手軽に作成できる代わりに、注意点もあります。手元におけるノートとは異なり、アプリは運営企業が提供しているサービスです。亡くなるまでの長期の保存とうたわれていても、何かの都合で急にサービス内容が変更されたり、縮小・終了する危険性があることは留意しておくべきでしょう。
終活ノートを自作する場合
終活ノートは自由な様式のものなので、自作することも可能です。ただし、自作する際には記入する項目を漏らさないことが重要。ここではポイントをご紹介します。
書き方のポイント
自作の場合、市販のノーマルなノートに記入するパターンと、パソコンを使用して文書を作成するパターンと、大きく2つの方法を取ることが考えられます。
手書きをする場合のポイントは、鉛筆や消えるペンなどで書くのは避け、万年筆やボールペンなど長期間保存しても消えないインクで書くことが必須です。書き直しが発生した場合に備えてあまり詰めて書かず、余裕を持った使い方を心がけましょう。
また、「お金について」「健康について」など、カテゴリーを分けて整理しておくと見やすくなるので、できればページの割り振りも、事前に計画しておくのが望ましいでしょう。
パソコンで作る場合は、書き直しや追加、順番の組み替えも比較的容易です。絵や画像を入れることもできます。ただし、こちらもアプリ同様、完成したノートの内容をプリントアウトしておかないと、何かのきっかけでデータが消えてしまう心配があります。
必要な項目
終活ノートでは、遺言などの法律文書では通常書かれない細かな意思表示ができる利点があります。以下では、亡くなった場合だけでなく、意思表示ができなくなった場合に必要となる事項を中心にご紹介します。
<緊急度が高いときに必要となる情報>
・万が一の際の連絡先(親族・親しい人の携帯電話の番号など)
・家族についての続柄、親族付き合いの詳細(最新の情報に更新することを心がける)
・健康に対する考え(医療の延命措置などについての考えをまとめておく)
・お金(銀行口座、有価証券、不動産など)の情報管理
・加入している保険についての情報
・重要なもの(万が一の際に必要な書類や印鑑など)の保管場所の情報
<緊急度中~低の情報>
・デジタル遺産(携帯電話のパスワード、SNSのログイン情報、継続課金しているものなど)の情報
・葬儀での希望(こんな葬儀にしてほしい、費用は〇〇をあててほしいなど)
・お墓についての考え(散骨したいなどの希望やお墓の費用にまつわる記載)
・自分のコレクションの希望(譲渡先の記載や処分方法など)
・加入している団体などの情報(会費が口座引き落としになっているものがあれば特に)
終活ノートの管理
終活ノートは、書いたら終わりというものではありません。状況の変化に応じて最新の情報に更新することが重要です。
家族構成が変わった、親族や知人の連絡先が変わった、銀行口座を増やした・解約した、保険を新たに契約した・解約したなどの変化が生じた際は、終活ノートの記入事項に影響が出るかどうか確認しましょう。
とはいえ、毎回修正するのは大変です。例えば、自分の誕生日などの節目や、年一回決まった時期に更新をすると決めるのはどうでしょうか。
また、終活ノートをどのように保管するかについても、きちんと検討しておきましょう。特にパソコンで作った終活ノートは、データの形式が古かったり、ファイルが壊れて開けなかったりするリスクも想定されますので、都度出力をして、決まった場所に保管しておくことが望ましいでしょう。
まとめ
終活ノートは自分が旅立つ前の身支度でもありますが、より良い人生を過ごし、より良いエンディングを迎えるためのものでもあります。
自分が書きやすいと思う終活ノートを見つけて、前向きなチャレンジをスタートさせるきっかけを作っておきたいものです。
●構成・編集/内藤知夏(京都メディアライン・https://kyotomedialine.com)
●取材協力/坂西 涼(さかにし りょう)
司法書士法人おおさか法務事務所 後見信託センター長/司法書士
東京・大阪を中心に、シニア向けに成年後見や家族信託、遺言などの法務を軸とした財産管理業務専門チームを結成するリーガルファームの、成年後見部門の役員司法書士。
「法人で後見人を務める」という長期に安定したサポートの提唱を草分け的存在としてスタート、
全国でも類をみない延べ450名以上の認知症関連のサポート実績がある。認知症の方々のリアルな生活と、多業種連携による社会的支援のニーズを、様々な機会で発信している。日経相続・事業承継セミナー、介護医療業界向けの研修会など、講師も多く担当。
司法書士法人おおさか法務事務所(http://olao.jp)