文/印南敦史

まず、『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(牧師 ミツコ 著、すばる舎)というタイトルが秀逸である。

一般的には、「全部そろってる、けど、お金がない」という順序で語られるケースのほうが多いのではないだろうか? だが、そうなると「お金がない」ことが苦しいことのように感じられ、必然的にネガティブな印象が強くなる。

一方、「お金はないけれど、あとは全部そろってる」のであれば、「お金がない」ことはたいしたことではないといったニュアンスが生まれる。そしておそらく、それこそが真実なのだ。

著者は牧師の家庭に8人きょうだいの5番目として生まれ育ち、自身も牧師を志した人物。神学系の大学を卒業後は同じ牧師の夫と結婚し、夫とともに47年間にわたって教会を運営してきた。

4人の娘たちはすでに独立し、孫は16人。闘病生活を続けてきた夫を2016年に見送ってからも“協力牧師”として週2回教会に通い、日曜日の礼拝の説教を担当。現在は、ひとり公営住宅で暮らしている。

来年から後期高齢者になる74歳の今、将来に不安を感じることはありません。母や教会の高齢の方の姿を見て、人間はこんなふうに老いていくんだなと、教えられました。(中略)
自分は生かされている。この命は神様から預かったもの。死や病気は自分の力でどうにかなるものではありません。神様から天に召されるとき、人の命が尽きるのです。
だから、今暮らしていけるだけのお金があれば、備えはいらない。この世は、天国へ向かっての旅の途中なのだから、生きているのにどうしても必要なもの以外は、持たなくていいと考えます。
(本書72ページより引用)

当然のことながら、神や命についての考え方の根底にはクリスチャンとしてのバックグラウンドがある。したがって、無宗教の方にはピンとこない部分も多少はあるかもしれない(私もそうだ)。

しかし、もっと根源的な意味で、こうした考え方には宗教的概念を超えた、普遍的な意味があるとも感じる。

単純なことばに置き換えるとしたら、ていねいに「普通の暮らし」をすることの大切さだ。

ただし普通に暮らしていくためには、健康を保つ必要はあるだろう。著者も、「介護が必要な状態となって、子どもたちに迷惑をかけるのは、できるだけ避けたい」と記している。

なお、大きな病気もせずに74歳まで健康に暮らしてこられたのは、幼少時から叩き込まれた父親の教えの影響だと自覚しているようだ。牧師として多くの人から信頼されていた父は、しつけに厳しい親でもあったのだという。

そんな父は自身の健康にも気をつけてさまざまな健康法を実践し、教会員や自身の子どもたちにも、以下のようなことの大切さを説いていたそうだ。

「三食きちんと食べる」
「食事の栄養バランスを考える」
「30回よく噛んで食べる」
「1日30品目食べる」
「よく寝る」
「早寝早起きをする」
「規則正しい生活をする」
(本書76ページより引用)

とくに著者の健康の源になっているのは、「よく寝る」。夜に早く寝るのはもちろんだが、午後の時間に家にいられるときは、1〜1時間半ほど昼寝もしているというので参考にしたいところ。

「30回よく噛んで食べる」ことも実践していることで、一人暮らしなので食事には30分くらいかけてゆっくり食べるという。

「規則正しい生活をする」ことは簡単なようで難しいが、だからこそ食事の時間を一定にしようと心がけているのだとか。シルバー人材の仕事や協会など、毎日出かける場所は違うが、食事の時間を決めると1日のスケジュールが整いやすいというのである。

基本的な1日のスケジュールは、このようになっているそうだ。

<1日の時間割>
6時:起床 30分ほど布団の上でストレッチし、さらに30分お祈りをする
7時:布団から出る
7時半:朝食 家事をして、火・水・木曜日は9時前に出かける
12時:昼食
午後:1時間〜1時間半ほど昼寝
18時半:夕食 テレビを見たり、運動をしたりする
21時半:入浴
23時:就寝
(本書78ページより引用)

毎日がこのとおりになるわけではないものの、だいたいこんなふうに過ごそうと意識していると、体調管理がしやすいと感じているという。たしかにこれなら、誰にでも取り入れやすそうだ。

* * *

前述したように、著者が大切にしているのは「普通の暮らし」をすることの意義だ。そこには宗教を超えた価値があるからこそ、本書が売れているという話にも納得できるのである。

『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』
牧師 ミツコ 著
すばる舎

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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