仏教徒が守るべき倫理規範である「戒律」は、7世紀に中国の道宣によって整理され、その系譜に連なる鑑真(688-763)によって日本に伝えられました。
五度の失敗にもひるまず渡航を果たした鑑真は、来日当時すでに失明していたと伝えられますが、東大寺に戒壇を整備したのち、唐招提寺を開山し、後進の指導にあたりました。
その後、鑑真和上の薫陶をうけた律僧たちを中心に、民衆のための福祉事業や造像活動が数多く行われ、日本人の倫理観の形成に大きな影響力を持ちました。
鑑真の遺徳をしのびつつ、多くの宗派の協力を得て戒律の教えがたどったあゆみを紹介する展覧会が開かれています。(5月16日まで)
本展の見どころを、京都国立博物館保存修理指導室長の大原嘉豊さんにうかがいました。
「鑑真と聞いて、唐招提寺所蔵の国宝『鑑真和上坐像』を思い浮かべる方は多いと思います。しかし、どんな功績を遺した人か、すぐに答えられる人は少ないのではないでしょうか。その答えを紐解くキーワードが『戒律』です。鑑真は唐招提寺を拠点に、中国正統の律の教えを日本に定着させ、日本仏教の質を飛躍的に高めたのです。
律とは僧侶のあるべき姿を示し、戒とは僧俗の守るべき倫理基準です。戒律を学ぶことは、僧侶とは何か、仏教とは何かを問い直すことでもあり、日本が社会変動を迎えるたびに、幾多の名僧が戒律に注目し、仏教の革新運動を起こしました。
特に鎌倉時代には、唐招提寺の覚盛、西大寺の叡尊、泉涌寺の俊芿をはじめ、没後700年を迎える凝然などの英傑が登場し、大きな足跡を歴史に刻んでいます。戒律のあゆみは、日本人と仏教との関係をあざやかに浮かび上がらせています。
本展では、日本仏教の恩人と言うべき鑑真の遺徳を唐招提寺に伝えられた寺宝によって偲ぶとともに、戒律のおしえが日本でたどった歩みを、綺羅星のような名僧の活躍と関係諸寺院の名宝を綴ることでご紹介します」
国宝、重文クラスの仏教美術が一堂に会す展覧会です。ぜひ会場に足をお運びください。
【開催要項】
凝然国師没後7百年 特別展 鑑真和上と戒律のあゆみ
会期:3月27日(土)~5月16日(日)
前期3月27日(土)~4月18日(火)後期4月20日(火)~5月16日(日)
会場:京都国立博物館 平成知新館
住所:京都市東山区茶屋町527
電話:075・525・2473(テレホンサービス)
開館時間:9時から17時30分まで(入館は17時まで)
休館日:月曜日(ただし5月3日は開館)、5月6日(木)
展覧会公式サイト https://ganjin2021.jp
京都国立博物館ウェブサイト https://www.kyohaku.go.jp/
料金:HP参
アクセス:HP参照
取材・文/池田充枝