文/川村隆枝
みなさま、はじめまして。岩手県滝沢市にある「老人保健介護施設 老健たきざわ」で施設長に就いております川村隆枝と申します。これから、6回にわたり、みなさまに介護施設の「本当の姿」をお伝えする連載を始めたいと思います。
みなさまは、介護施設にどんなイメージをお持ちでしょうか。最近は、虐待などのニュースもあり、あまりいい印象ではないかもしれませんね。実は、私も最初はそうだったのです。
私は、新人施設長として、桑原美幸師長に初めて入所者の部屋を案内されたとき、軽いショックを覚えました。
寝たきりの高齢者ばかりが目に入ったからです。
「現代の姨捨山(※家族の生活を考えて、働けなくなった親を口減らしとして山に置き去りしていたという民話)なのか?」とさえ思いました。
しかし、一年以上経った今、その思いは消え去りました。むしろ、介護施設は入所者にとって楽園ではないかと思っています。
家族と離れて暮らす寂しさはあるかもしれませんが、プロの介護スタッフによって手厚いサポートを受けながら日々を送れるからです。
ただ、一般的には介護施設に預ける側の家族は、罪悪感を抱いています。
預けられる側の入所者も、介護施設に入るのは、家族に見捨てられたと悲観的にな方が多いといいます。
はっきり言いますが、それは誤った考えです。
想像してください。
もし、全介助または一部介助で生活している要介護者が自宅に一人で残された場合、どうなってしまうのか。そして、妻、夫や娘、息子、あるいはその嫁などが一人でお世話しようとしたら、どういう結果を招くのか。
自宅で介護する場合、付きっきりで側にいない限り、食生活は不規則なり、入浴も不十分になります。低栄養と不潔な環境は免疫力を低下させ、生命を脅かすことになります。介護は、とても一人で手に負えるものではないのです。
その点、介護施設には、介護のプロフェッショナルがそろっています。
栄養バランスが考えられた食事、体力と可動域を考慮した適切なリハビリテーョンだけでも血糖値や血圧が安定し、体調も上向きになり、それまで服用していた薬が半分以下になる場合もあります。
こう考えるのはどうでしょうか。
よく分からない病気や骨折をしたとき、「家庭の医学」を読みながら、自宅で治療する人はほぼいないはずです。すぐに、病気を治すプロフェッショナルがいる病院へ行きますよね。
要介護者が介護施設に入るとは、それと同じようなものです。
重度の障害があるならば、介護施設でその道のプロが考えるプログラムの下で、療養生活をしたほうがいい。そう考えれば、施設に預けようとする人も、施設で暮らすことになる人も納得できるはずです。
しかも、施設に入所すると、楽しいことが盛りだくさんです。
毎月の行事だけではなく、体調がよければ介護スタッフと車椅子で出かけて、春はお花見、夏は海、秋はお祭り、冬は雪景色を楽しめます。
また、入所者それぞれに栄養コントロールはされるものの、食事も美味しい。
施設の食事といえば、味気ないものをイメージするかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、行事に合わせたひな祭りのちらし寿司やクリスマス・ケーキ、季節を感じるデザートなど、栄養士が心を込めた食事は、私も食べたくなるほど美味しいものばかりです。
私は、老健たきざわの施設長になって、介護施設は介護を必要とする人たちの楽園なんだなと実感しています。
だから、毎月のお誕生会で、いつもこの言葉を口にしています。
「これからも今を大切に。楽しいことがたくさんありますように」
川村隆枝/1949年、島根県出雲市生まれ。東京女子医科大学卒。同医大産婦人科医局入局。1974年に夫の郷里の岩手医科大学麻酔学教室入局、同医大付属循環器医療センター麻酔科助教授。2005年(独法)国立病院機構仙台医療センター麻酔科部長。2019年5月より、岩手県滝沢市にある「老人介護保険施設 老健たきざわ」施設長に就任。