主菜は前夜に仕込む煮込み料理で、主食はなし。加えて常備菜とゆで卵からなる朝食が、多忙なハーピストの健康の源だ。
【石﨑千枝子さんの定番・朝めし自慢】
スタジオジブリのアニメーション映画『千と千尋の神隠し』で、ハープの音色に魅せられたという人は少なくあるまい。
「あの映画の主題歌『いつも何度でも』に登場するのは、ライアーという小型ハープです」
と説明するのは、ハーピストの石﨑千枝子さんである。
石﨑さんは小学3年生でハープに出会ったと、次のように語る。
「私が通っていた板橋区立富士見台小学校(東京)では、昭和35年頃から日本ハープ協会の三村勉先生を招いてハープの指導が始まったのです。そして、生徒を中心にジュニア・ハープ・アンサンブルが編成され、私もその一員でした」
こうして 石﨑さんの“ハープ人生”の幕が開いた。小学生が使うのはアイリッシュ・ハープという小型のハープで、ハープの早期教育と家庭楽器を目標に、日本で考案されたものだ。これで指使いを習得すれば、一般的なペダルハープに移行するのが容易だという。
中学から高校時代は個人レッスンを受け、卒業後は三村勉さんが主宰する日本ハープ音楽院に学ぶ。この頃からアンサンブルメンバーとして海外公演を行なう他、ソロ演奏でも活躍してきた。
炭水化物を控える
ハーピストは多忙だ。自らの練習に加えて、ハープ教室の講師や個人レッスンの指導もある。
「料理は練習の合間の気分転換になるので嫌いではないのですが、朝食に限っていえば、朝、作るのはゆで卵だけです」
畢竟、前夜が勝負だ。主菜となる肉類と野菜の煮込み料理は、前夜に仕上げておく。よく登場するのはカチャトーラやラタトゥイユ、和風なら大根と鶏肉や豚肉の煮物といったところ。主食はない。
「60歳を過ぎた頃から、朝食の炭水化物は控えめに。摂ったとしてもクラッカー2、3枚です」
結婚前に土井勝さんや赤堀千恵美さんの料理学校に通って、基本だけは学んだ。その後の料理の先生は、外食だという。
「食べることが大好きで、外で食べて美味しいと思った料理は試してみる。案外、成功しますよ」
ハープ仲間の家族を招いて、手料理でもてなすのもまた、健康の秘訣だという。
ハープ・アンサンブルの音色が、人々の癒しになれば嬉しい
平成17年、ハープ・アンサンブル「ラ・ラミュール」を結成した。50歳を過ぎて、ハープで社会貢献活動をしたいと思ったからだ。
「公共団体や企業からの依頼で、介護施設や老人ホームなどを訪れています。アンサンブルが醸し出すハーモニーが施設にいる人たちの癒しになれば、これほど嬉しいことはない。今はソロ活動よりも、アンサンブルが中心です」
20代で始めた『銀座十字屋』のハープ講師を始め、『池袋コミュニティ・カレッジ』や『よみうりカルチャー川越』のリトルハープ・アンサンブルの講師もある。リトルハープとは、手軽に持ち運べる小型ハープのことである。
「生徒さんは十人十色で、楽譜が読めない人もいます。けれど、その人が何を目標、目的にしているのかを見極めて接しています。決して押し付けないけれど、その目標のために的確なアドバイスをして、ゴールまで伴走できればと願って指導に当たっています」
現在、生徒は5歳から78歳までと幅広く、40~50人を数える。ハープの優雅で美しい音色を広めるのが使命である。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆
※この記事は『サライ』本誌2021年1月号より転載しました。