これまで本連載では、レコード/CDのジャケットは音を聴かせる前からその内容をイメージさせる大切な作品の一部であると、たびたび紹介してきました。現在出ているLP→CD化作品の多くは、オリジナルLPジャケットのデザインが使用されていますが、なかには同じ音源であっても違うデザインを使用しているものもあります。それが新しい魅力を付加するかどうかはそのデザイン次第ですが、作品の印象は当初の制作者の意図とは変わってしまいます。でも、そもそもLPの時代から、同じ音源、同じ制作者にもかかわらず複数のジャケットが使われてたものが、じつは少なくありません。
たとえば『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』(以下『ウィズ・ストリングス』)。ジャズの「ウィズ・ストリングス」の嚆矢となった名盤として知られますが、これ、ジャケットが何種類もあるのです。
このアルバムが録音された1949年はレコード産業が大きく変わろうとしていた時期でした。新規メディアの登場です。それまでのレコードは78回転シングル盤(いわゆるSPレコード)でしたが、その小型化を図った7インチ・シングル盤(ビニール製)、複数曲の収録を考えたLP盤(当時は10インチ)という「ニュー・メディア」が登場したのです。そのため、このアルバムはSP盤3枚セット、シングル盤3枚セット、LP盤1枚もの、の3種類のメディアでリリースされました。でもジャケット・デザインはいずれも同じでした。そして翌年、好評に応えて第2弾が録音され、これも3種類のメディアでリリースされました。
さらにその後、12インチLP盤が登場します。そしてメディア戦争の結果、シングルはSP盤が無くなり7インチ盤が生き残りました。LPは12インチが主流になり、ジャズのアルバムも12インチLPで作られるようになりました。そのとき、それまで出ていた旧メディア(10インチLP、SPやEPのセットもの)によるアルバムの多くが12インチLPで出し直されたのです。2インチ大きくなって、より長時間収録できるようになりましたので(のちのLPのCD化のようですね)、多くは再編集されて「別アルバム」の体裁で再リリースされました。『ウィズ・ストリングス』もこれまでの2枚の全曲が1枚にまとめられました。ジャケットも新装版です。それが3)です。違う商品(レーベルも移籍)なので、ジャケットを変えるのはある意味当然ともいえますが、これはかなりイメージが変わりますよね。
そして、その後日本でリリースされたLPが4)です。日本盤『ウィズ・ストリングス』はこのデザインで初めてLPリリースされ、以降長い間この形での再発が続きました。初CD化も同じジャケットでした。ですから『ウィズ・ストリングス』はこのデザインで記憶されている方も多いと思いますが、このジャケットは日本盤だけです。
というわけで、この『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』と呼ばれるアルバムは、アメリカ盤の3種類、さらに日本盤1種類の計4種類のジャケットがあるのです。やっかいなのは、ここで紹介した4枚はそれぞれのジャケットでCDでもリリースされていること。さらに、たとえば2)のジャケットを使ったコンプリート・ヴァージョンのCDもあったりと、つまり、同じタイトルで4種類のジャケットがあり、そしてそれを超える数の収録曲違いヴァージョンが店頭に並んでいるのです。
これから初めて『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』のCDを買おうというとき、あなたはどのジャケットのCDを買いますか? 「ジャケ買い」という言葉があるように、ジャケット・デザインを目にしたところから、その作品の鑑賞は始まっているのです。
文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。