程度の差こそあれ、誰しも加齢とともに筋力の衰えを感じるようになるものである。とはいえ、自分の筋肉がどれだけ衰えているのかを把握する機会は多くないかもしれない。
そうした現実を鑑み、『足腰は1分で強くなる!』(高子大樹 著、自由国民社)の著者は本書の冒頭で、まず「1分でできる簡単なテスト」を紹介している。
1.身体を壁に向け、壁から50センチほど離れた所に素足で立ってください。
2.両目を開けたまま、両手を下げて、左右どちらかの足を前方に5センチほど上げます。
3.体がぐらぐらして、床につけている足の位置がずれたり、上げていた足が床についたり、手が壁に触れるまで、何秒かかったかを測ってみてください。
(本書「はじめに」より引用)
これは足の筋力やバランス機能を調べるための「開眼片足立ち」という評価方法。20秒以上片足立ちができなければ、筋力が衰えている可能性が高いようだ。
厚生労働省では、年齢と共に脚力が弱まって歩行困難になる高齢者を減らすことを目的として、「開眼片足立ち」が20秒以上できる75歳以上の男性が60%以上、75歳以上の女性が50%以上」を目指すという数値目標を掲げているという。
ちなみに著者は、横浜市「たかこ整骨院」「くろまく整骨院」総院長。豊富な経験を軸に提唱しているのは、「痛みの黒幕を知れば、痛みは消える」という「痛みの黒幕治療」だ。それは、「ほとんどの痛みには別のところに原因があるため、体全体を鍛えることで、あきらめていた痛みを治す」という治療法だそうだ。
つまり「くろまく元気体操」と名づけられたそれは、長年にわたる治療実績と医療理論に基づいた高齢者向けの運動方法。本書では、その理論と方法をわかりやすく解説しているのである。
高齢者が筋力をつける際に最も重要なのは、「抗重力筋」。背中、お腹、お尻、太もも、ふくらはぎについている、地球の重力に対して姿勢を保つために働く筋肉のことだ。
だとすれば、ジョギングをしたり、ジムで鍛えたりしようと考える方もいるだろう。もちろんそれはいいことだが、気をつけなければならないこともある。
動かし方を間違えると、体に無理な力がかかってしまい、かえって身体を痛めてしまう場合があるのだ。それを避けるためには、体に無理な負荷をかけず、効率よく身体を動かす方法を心得ておかなければならない。
そこでポイントになるのは、「テコ(梃子)の原理」。いうまでもなく、大きなものを少ない力で動かしたり、小さな運動を大きな運動に変えることだ。本書で紹介されている高子式「くろまく元気体操」も、すべてテコの動きを応用したものなのだという。
体操は全部で7パターンあり、1番目から7番目まで、順番に行うのが理想的。1~4までの体操は、5~7の本格的な体操をする前に血行をよくして筋肉をほぐすウォーミングアップの体操だからだ。
とはいえそのすべてをご紹介するのは難しいため、ここではスタートラインである「1.風船体操」をご紹介しよう。
古い武術の鍛錬法がもとになった呼吸法。風船呼吸をするだけで、へその下にある丹田(たんでん)が活性化し、体の軸がしっかりするというのだ。乱れた自律神経を整えたり、足の浮腫を改善する効果もある。
腰痛などで布団から身を起こすのがつらい人も、驚くほど起き上がりやすくなるそうなので、取り入れてみる価値はありそうだ。しかも、やり方はいたって簡単だ。
1.あお向けに寝て、ひざを立てる
ふとんの上など、でこぼこのないところにあお向けに寝そべり、両ひざをゆっくりと立ててください。
ひざを立てるのは、お腹周りを少しゆるめて呼吸しやすくするためです。
※この時、両手をお腹に当てお腹の動きを感じましょう。
(本書136ページより引用)
2.息を吸ってお腹を風船のように膨らませる
3秒間かけて鼻から息を一気にスーッと吸ってお腹を膨らませて下さい。
このとき、胸で吸う胸式呼吸はできる限り行わず、お腹の中の風船をフゥーッと大きく膨らますようなイメージでお腹に空気をしっかり入れましょう。
(本書137ページより引用)
3.風船の空気が抜けるようにゆっくり息を吐く
腹圧がグーッと高まるのを感じたら、今度は約10秒間かけて鼻もしくは口から細く長くゆっくりと息を吐いてください。
息を強く吐いてしまいがちですが、膨らませたお腹の風船の空気がシューッと自然に抜けていくようなイメージで行います。
(本書138ページより引用)
1~3の呼吸を5回(約1分)×1~4セット(約1~5分間)行う。5回(約1分)でも効果は出るものの、20回ほど行うと確実に体感できるそうだ。
たとえばこのように、著者の推奨する「くろまく元気体操」はとてもシンプルで取り入れやすい。本書を参考にしながら、以後のプロセスもぜひ身につけたいものだ。
『足腰は1分で強くなる!』
著者:高子大樹
自由国民社
本体 1,300 円 + 税
発行;2020年05月
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。